Metempsychosis
in Tales of the Abyss

一方その頃、表舞台では… 上

今回も留守番のリスティアータ達に見送られてダアトに入ったルーク達だったが、イオンに会うべく向かったローレライ教団で見たのは、教団前に詰めかけた人々と、その対応に追われる詠師トリトハイムの姿だった。

まさかそこに突っ込んで行くわけにもいかず、ルーク達は少しの間様子を窺う事になる。

「いつになったら船を出してくれるんだ」
「港に行ったらここで訊けと追い返されたぞ!」
「ルグニカ大陸の八割が消滅した!この状況では危険過ぎて定期船を出す事は出来ぬ!」

口々にぶつけられる不満に必死に説明しているのだが、その内容は何も知らない者達からすれば余りに突飛。

即座に嘘を吐くなと鋭い声が飛ぶ。

「嘘ではない!ルグニカ大陸の消滅によってマルクトとキムラスカの争いも休戦となった。とにかく、もっと詳しい状況が分かるまで船は出せぬ」

しかし、それを上回るトリトハイムの声に、説明を求めて押し掛けた者達は、一人二人と散り始める。

「ルグニカ大陸って言えば、世界で一番でかい大陸だ。それが消滅したなんて…信じられん!」
「どうなってるんだ、世界は……」

嘘だと思いたい。

そう誰の顔にも書いてあるが、それを否定してくれる者など、居はしない。

それを余所に、トリトハイムの説明を聞いたルーク達は、少しホッとしていた。

「この状況で戦いを続ける程、インゴベルト陛下も愚かじゃなかったって事だな」
「ええ、それだけが救いですわ」

一時とはいえ、休戦となった事にナタリアは胸を撫で下ろしたが、ルークはまた別の問題に眉を寄せる。

「でも、この事がもっと大勢の人に知られたら、大混乱になるな……」
「この先どう対処するかが分かれば、それも抑えられる筈よ」
「そういう事ですね。イオン様に面会しましょう」

そう、今はその方法の手掛かりを求めている状況。

場所が場所だけに目立った行動は出来ないので、いかに短時間で済ませられるかが勝負だと、ルーク達は気を引き締めた。



向かったローレライ教団では、末端の兵には情報が伝わっていないようで、あっさり入る事ができた。

が、如何せん、

「イオンは何処にいるんだ?」

イオンの居場所が解らない。

一番可能性が高いのは私室だが、導師の私室は教団幹部しか入れないよう、鍵代わりに譜陣が侵入者対策に置かれていると言う話になり、ならばどうするかとなった時、アニスがエッヘンと胸を張った。

「そんな時は、導師守護役のアニスちゃんにお任せv」
「元、だろ」
「ぶー。『元』だけど、ちゃんとお部屋に続く譜陣を発動する呪文、知ってるモン」

ルークのツッコミにぷぅっと膨れながらも豪語したアニスの言った通り、近くの部屋に設置されていた譜陣からイオンの私室へと辿り着いた、のだが。

「イオンの奴、何処に行ったんだ」

イオンは私室に居なかった。

すぐ戻るのか、はたまた今日1日不在なんて事はないだろうなと思っていた時、ティアがいち早く足音に気つく。

「しっ、静かに。誰か来るわ!」
「ヤバ…。ここは関係者以外立ち入り禁止だよぅ!」
「隠れよう!」

慌てたルーク達が私室の更に奥にあった部屋(ベッドもある事から、単純に眠る為の部屋なのだろう)に逃げ込む。

それとほぼ同時にドアが開かれた。

「ふむ…。誰か此処に来たかと思ったが……気のせいだったか」
「それより、大詠師モース。先程のお約束は本当でしょうね。戦争再開に協力すれば、ネビリム先生のレプリカ情報を……」
「任せておけ。ヴァンから取り上げてやる」
「ならばこの『薔薇のディスト』、戦争再開の手段を提案させて頂きましょう」

入ってきた者達(声だけでもモースとディストだと解った)は、最初こそイオンを訪ねた者がいたのではと気にしていたようだが、話の途中だったのか何なのか、ディストの確認した内容に意識を移す。

ジェイドはその内容に眉を寄せ、ルーク達はこんな場所(主が不在とは言え、イオンの私室)で話す事じゃないだろうと、大分呆れた。

「まずは導師イオンに休戦破棄の導師詔勅を出させるのがよろしいかと」
「ふむ。導師は図書室にいたな。戻り次第、早速手配しよう」

ディストの提案をあっさり受け入れたモースは、二人連れ立って私室を出て行く。

その足音が聞こえなくなって暫く、ジェイドが未だ声を抑えながら言った。

「……今の話を聞くと、モースとヴァンはそれぞれ違う目的の為に動いているようですね」
「ああ、何かディストが自分の目的の為に、2人の間でコウモリになってるって感じだった」

そう言ったルークに頷いて、ジェイドは思案するように視線を落とす。

「モースは預言通りに戦争を起こしたいだけ。では、ヴァンの目的は?」
「外殻大地を落として、人類を消滅させようと…」

はたしてそうだろうか。

確かに実行された事実を見ればそれもあるのだろうが、しかし、ジェイドはすっきりしなかった。

「私には、あの人がそんな意味の無い殺戮だけを目的にしているようには見えません。モースの方が、目的が明快なだけに脅威は感じない」

ヴァンとモースは『違う』。

利害の一致という可能性は残るが、ジェイドから見た限りでは確信を持っている。

ただ、何が違うのかとなると、ヴァン達の目的を知る為の手掛かりも情報も、無に等しい。

その策略ぶりは見事だ。

例えるならばモースは自分達の眼前に据えられた分厚い壁。

その壁の遥か遠くで、一体何をしているのか…。

未だ見えない目的が、ヴァン達…いや、ヴァンの、底知れなさを増幅させた。

「なら、まずは明快な敵の方を片付けようぜ。インゴベルト陛下にモースの言葉を鵜呑みにしないように進言して、戦争を再開させないように…」

問題が詰まったのを見てガイが言うが、それにナタリアが俯いた。

「……でも、私の言葉を……お父様は信じて下さるかしら」
「ナタリア!当たり前だろ!」
「……私、本当の娘ではないかも知れませんのよ」
「「「「「………」」」」」

ナタリアらしくない気弱な発言に、ルーク達はかける言葉が見つからない。

中途半端な慰めなど、言える筈もなかった。

もし今此処にリスティアータが居たならば、何かしら励ましてくれたのだろうかと、そんな事さえ思ってしまう。

しかし、現実問題リスティアータは居ないのだ。

「も、も―っ!その時はその時だよ!それより図書室に行こっ!」

沈んだ雰囲気を振り切るように、アニスが先頭に立って、モース達がイオンを見たと言っていた図書室へと向かった。




執筆 20110403

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