Metempsychosis
in Tales of the Abyss

新たな危機

魔界を飛行してルーク達が見たのは、不規則に点滅を繰り返すセフィロトツリーだった。

「うわっ、あのセフィロトツリーおかしくないか?」
「眩しくなったかと思ったら消えかかったり……。切れかけの音素灯みたい」
「やはり…」
「アンタが言ってたのはこれかい?」
「ええ…セフィロトが暴走している……。パッセージリングの警告通りだ」
「セフィロトの暴走?」

確かめたい事があると言った張本人であったジェイドだけが、カンタビレの問いに頷いて、予期していたように眉を顰める。

その会話に、ルークは首を傾げた。

「恐らく何らかの影響でセフィロトが暴走し、ツリーが機能不全に陥っているのでしょう。最近地震が多いのも、崩落の所為だけではなかったんですよ」

ジェイドの説明に、ティアはハッとした。

「待って下さい!ツリーが機能不全になったら、外殻大地はまさか……」
「パッセージリングが耐用限界に到達と出ていました。セフィロトが暴走した為でしょう。パッセージリングが壊れれば、ツリーも消えて、外殻は落ちます。そう遠くない未来にね」

それを聞き、ルーク達も青醒める。

ユリアシティの住民は疎か、市長であるテオドーロさえもこの事態を知らないに違いない。

それに、ケセドニアも、セントビナーも、無事な形で崩落した大地はすべて、セフィロトの力で液状化した大地に浮いているのだ。

パッセージリングが壊れたら、液状化した魔界の大地が固形化でもしない限り、総ては泥の海に飲み込まれる事になる。

そもそも障気の汚染と液状化から逃れる為に外殻大地を作った過去の人々。

それは、今では遠く及ばない技術を持った人々ですら何も出来なかったという事に他ならない。

では、そんな技術すらない自分達に、一体何が出来るのかと、打ち拉がれた。

「なぁ、ユリアの預言にはセフィロトが暴走する事は詠まれてないのか?暴走するには理由があるだろ。対処法とか預言にないのかよ」
「残ってるとしてもお祖父様では閲覧出来ない機密情報じゃないかしら」

ルークの言葉に、瞬間希望を見いだせたかと思えた。

しかし、テオドーロさえ閲覧出来ないとあっては、どうしたら、と、気づく。

1人、いるではないか。

そう。

リスティアータが、

と、

「私は預言を詠まないわ」
「!?」

心を読んだかのようなタイミングでリスティアータに先手を打たれ、ぐっと言葉に詰まったルークだったが、すぐに何故と思う。

『リスティアータ』と、『預言を宿す者』と呼ばれるからには、預言を知ることが出来る筈で、

「…こんな時にと、責められても」

それでも、詠まないと、
そう言ったリスティアータの目はとても強い。

しかし、今の状況で、それは、

「今はそんな、」
「ルーク、少し落ち着いて」
「そもそも、譜石もないんだしぃ…」
「…ぁ」

ティアに宥められ、アニスに指摘を受け、納得いかなかったルークは、ぐっと言葉を詰まらせた。

そこまで考えが至らなかった自分に、気まずくなって視線を落とす。

「リスティアータ…ごめ」
「ルーク」
「…!」

すぐに謝ろうとしたルークは、気づけばリスティアータが目の前に立っていて、驚く。

そんなルークに、リスティアータは静かに首を傾げた。

「何故、謝るの?」
「え…だって…」
「……」

答えを待つリスティアータに、ルークは考える。

何故、なぜだろう?と。

「ルークは、間違った事を言ったと思っているの?」

訊かれ、ルークはそれを否定した。

間違った事を、言ったとは思わない。

ただ、預言に何かしらヒントがあるのではと考えて、リスティアータに思い至って、顔を向けた時に、

泣きそうに、見えたから。

だから、

でも、

「俺は、間違ってるとは、思ってない」

改めてそう答えたら、リスティアータは優しく微笑んだ。

「私も、ルークが正しいと思うわ」

だから、謝る必要はないと彼女は言うけれど、ルークはまだ納得いかない。

それが顔に現れていたのか、リスティアータはまた少し笑った。

「今は預言を知ることが先決です。その話はまた後にしましょう」
「……イオン様なら」

ジェイドがズレた話を戻すと、再び訪れた沈黙の中で、ポツリと、アニスが言った。

「……イオン様なら…ユリアシティの最高機密を調べる事が出来ると思う…」
「本当か!?」
「うん。だって導師だし……」

渋々といった様子のアニスだが、イオンに希望を見いだしたルーク達は、一路ダアトへと向かうべく、外殻を目指した。




戻った外殻は夜も更けており、ダアトに到着するのは明日となった。

皆、疲れた体を休めるべく既に部屋に入っていたが、操縦士のノエルを除き、リスティアータとジェイドは未だ座席に留まっている。

とは言え、リスティアータはただただ外を眺め、ジェイドは何とも分厚い本(資料)を読んでいた。

そんな分厚い本を一体何処から持ってきて、いつから持っていたのかは限りなく謎である。

と、一区切りついたのか、パタンと本を閉じたジェイドは座席を立った。

「もう夜も遅い。休まれたらどうですか?」
「…ええ」

そう言われ、外からジェイドに視線を向けたリスティアータもまた席を立ち、部屋へと歩き出す。

「では、おやすみなさい、ジェイド」
「……あなたは、」

それぞれが休む部屋を前に、にこりとリスティアータが告げた夜の挨拶を聞きつつ、ジェイドが言った。

「預言を『詠めない』んですか」

問いではなく、確認。

前にも似たような聞き方をされた事があった。

神託の盾に占拠されたタルタロスを脱出した後、最初の野営をした時だ。

あの時は無言で肯定を返したリスティアータだったが、

「…私は、預言を『詠みません』」

強い否定を返した。

前との違いは、それが、リスティアータ自身の意志で決めたという事。


「…おやすみなさい、ジェイド」
「…ええ、おやすみなさい…」

今度こそ挨拶を返したジェイドを残し、リスティアータは部屋の扉を閉めた。

先に休んでいたティア達は、疲れも相まってか眠りは深いようで、起きる様子はない。

ただ1人、カンタビレを除いて。

「カンタビレ」
「はい」
「私は、自分勝手ね」
「……」
「それでも、私は…」
「……リスティアータ様」

ぎゅっと自身を抱き締めるリスティアータに、カンタビレは静かに寄り添った。

もとより、今の彼女は返事が欲しい訳ではないだろうと、

自身の自問自答なのだろうと、感じたから。


暫くして、再度強く抱き締めたのを最後に、リスティアータはふっと力を抜いた。

「…カンタビレ」
「はい」
「今から見る事は、みんなには内緒にしてもらいたいの…」
「リスティアータ様が望まれるなら。…しかし、何を」

突然の頼み(彼女の頼みはいつも突然ではあるのだが)に首を傾げるカンタビレから離れ、深く眠るティアの元へと歩み寄った。




執筆 20110307










あとがき

な、難産…!

ホントはもっと先まで書く予定だったに、預言を詠む詠まないでやたらと長くっっ!

頑張ったんだけど、めちゃ詰め込んだからなぁ…ちゃんと伝わるかしら…orz

あ、理由?

理由書いてないじゃんて?

理由は…まだ暫く想像を膨らませてて下さいませ(笑)

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