緩やかな崩落
「では、此方は先に出発します。其方は頼みましたよ」
「はい。お気をつけて」
「精々ヘマしないようにするんだね」
「いってらっしゃい」
因みに、上から順に、ジェイド、ノエル、カンタビレ、リスティアータの言葉である。
聞いて解るだろうが、またまたリスティアータとカンタビレはお留守番。
(とは言え、女性や子供、老人などの避難を手伝う役割を担ってはいる)
しっかりと頷いたノエルと違い、カンタビレは他人事のように、リスティアータは事態を分かってるのかと不思議な程ののんびりさで揃って手を振ってルーク達を見送ろうとしている。
それを見て、ジェイドは改めて言った。
「其方は頼みましたよ、ノエル」
任せられるのはあなたとローズ夫人ぐらいですから。
そう言外に言われ、今度は苦笑してノエルは頷いたのだった。
ジェイド達がエンゲーブを発ったのを、リスティアータ達は最後まで見送る事もなく移動を開始する。
まずは子供を、と優先して乗せていれば、当然初めて見る空飛ぶ譜業アルビオールに目をキラキラとさせていて、緊迫した雰囲気をぐっと和らげ、微笑みを誘った。
早朝から5回6回と、日に何度もケセドニアを往復していたアルビオールだったが、それもジェイド達が発ってから3日目の夜に漸く避難完了の目処が立ち、4日目の昼前には最後まで避難の指揮を執ったローズ夫人を含む最後の住民、そしてリスティアータとカンタビレを乗せて、アルビオールはエンゲーブを飛び立った。
ぐんぐんと高さを上げるアルビオールの中で見たものは、今にもエンゲーブに到達しようとしている赤い軍隊の姿。
あともう少し出発が遅ければ、巻き込まれていただろう事に、住民達はぞっとする。
そうして到着したケセドニアで、マルクトの領事館でローズ夫人達を受け入れてもらった。
そこで聞いた話では、徒歩組は既に到着しているらしいので、ルーク達もケセドニアの何処かにいる筈である。
探して合流しようと、領事館を出たその時、ぐらりと視界が揺らいで、倒れかけたリスティアータとその肩からころりと転げ落ちたクロをカンタビレが支えた。
すぐに地震とわかり、暫くはそうしていたが、それはなかなか治まりを見せなかったが、ゆっくりと高くなる空に、沈む大地に気付く。
「崩落…?」
真っ先に浮かんだ可能性を思わず口にしたカンタビレだったが、話に聞いたアクゼリュスとも先のセントビナーとも違う様子に、リスティアータと顔を見合わせた。
そうして様子を見ていれば、次第に空気は障気で淀み、蒼く美しかった海は、障気の海に姿を変えて、
再度の衝撃を最後に、大地は魔界へと降り立った。
「お二人共、ご無事ですか!?」
揺れが治まって少しして、アルビオールに残っていたノエルが、リスティアータ達を見つけて駆け寄って来る。
「私達は大丈夫。ノエルも大丈夫かしら?」
「それは良かった!私も大丈夫です。でも、どうしてこんな…」
言葉通りの無事な様子にホッと息を吐いたノエルだったが、彼女もまたセントビナー崩落との違いに戸惑っていた。
「自然な崩落じゃないのは確かだろうね。とは言え、セントビナーと同じように崩落してたんじゃ、全員死んでるから、大方ルーク達が何かしたんだろうさ」
少なくとも、戦場ごと消滅させようとしていたヴァン達の仕業ではないだろうと、カンタビレは軽く答える。
と、噂をすれば影が差す。
キムラスカ方面からやって来るルーク達を見つけると、向こうもリスティアータ達に気づき、漸くの合流となった。
エンゲーブの住民の避難を無事終えた事を告げれば、一様にほっとしたようだ。
「到着早々申し訳ありませんが、飛んでもらう事は出来ますか?」
「勿論です」
ジェイドに言われ、ノエルがアルビオールへと先に戻って行くのを見送って、ガイが訊いた。
「外殻へ戻るのか?」
「少し気になる事があるので、魔界の空を飛んでみたいんですよ」
「何が気になってるんだ?」
「…確証のない事は言いたくありません」
ジェイドの答えに、ルーク達は一斉に眉を顰める。
「大佐がこう言う時は、何か嫌な事がある時ですよねぇ…」
アニスが言った通り、コーラル城の時然り、今度は何だろうと思いながら、ルーク達はアルビオールへ向かおうとする。
「ところで、先程から気になっていたのだけれど…」
「導師はどうしたのさ?それに…」
一行と共に歩きながら、リスティアータ達が聞けば、ルーク達が「あ、」と立ち止まった。
そして言葉を切ったカンタビレが、チラっと視線を自分に向けられたのを見て、ナタリアは視線を地面に落とす。
「…少し込み入った話になります。アルビオールに行ってから話しましょう」
「分かりました」
どう言ったものかと思案するルーク達だったが、ジェイドが促したので一先ずアルビオールへ乗り込んだ。
そうして魔界の空を飛ぶ間にガイから聞いたのは、
イオンが自らダアトへ戻り、
オアシスでのアッシュとの接触と、
その時得られた情報から、同時に2カ所のパッセージリングを操作して、大地を降下させたという事。
それから、
ナタリアが偽の王女であると、モースが断言したという事だった。
執筆 20110227
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