marionette
クロが障気を食べた。
直接目にした訳ではないが、状況が、そう言っている。
そんな衝撃的な出来事に、フィエラは困惑を禁じ得なかった。
元々、気になってはいたのだ。
フィエラが視た預言はイオンが没した日が最後だ。
あの日、覚悟を決めて、総ての預言を視た。
以来、制御出来るようになっても、一切預言を視る事なく、またそれを悟られぬように、目を閉ざして過ごしてきた。
預言を自分が『利用』する事こそあれ、『頼る』事も『縋る』事もするつもりは…したく、なかったから。
その二つの何が違うのかと言われるかもしれないが、フィエラにとっては絶対的な違いだった。
しかし、とフィエラは思う。
あの日視た預言に、クロを、『リスティアータに黒いチーグルを渡す』なんて預言は、なかった。
「………」
チーグルの長老の言った、『チーグル族にのみ伝わるユリアの遺言』という言葉を思い出し、フィエラは眉を顰める。
ーーーーーー…もし、
もし、
譜石に刻まれた預言が、
ユリアの預言の総てでないとしたならば…ーーーーーーーーー
「ーーーーーー…っ」
それに思い至った途端、全身を包まれるような悪寒に襲われて、フィエラは自身を掻き抱く。
ーーーーーー…怖い
ーーーーーー…怖い、怖い、怖いっ
ーーーーーー…事実、ユリアが預言に総てを記しているか否かなどは解らない。
ーーーーーー…でも、
ーーーーーー…でもっ、
ーーーーーー…世界の総てが、ユリアの手のひらで転がされているかのようで、
ーーーーーー…自分の総てが、
ーーーーーー…自分の意志で動いているはずの自分が、
ーーーーーー…ユリアの操り人形のようで、
ーーーーーーー… コ ワ イ …
「…………っ……て…っ」小さな小さな呟きは、誰にも届く事はなかった。
執筆 20110213
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