Metempsychosis
in Tales of the Abyss

障気の気配

ルーク達が丸半日を掛けてセフィロトから戻って来た時、リスティアータはティアの様子の変化にすぐに気づいた。

「ティア」
「…え、あ、はい」

心なしか青醒めて見えた顔色にリスティアータが声を掛ければ、ティアは返事を返す。

しかし、その反応は日頃の彼女からすれば明らかに鈍く、リスティアータは静かに目を細めた。

「顔色が悪いわ」
「あ、いえ、大丈夫です。少し疲れただけだと思います」

そう言ってティアは微笑むが、リスティアータがきゅっと眉を寄せるとぎくりと身を強ばらせた。

決して厳めしい顔をしたリスティアータが怖かったからではない。

ただ、まだ原因が分からない自身の変化を目ざとく見つけられたようで、

「あの…リスティアータ様?」
「体調が優れないなら、少し横になった方が良いわ」
「いいえ、そんな。本当に少し」
「ティア、メッ」

正直、体は重く、何処とも知れない内側が、痛みとも疼きとも言えない感覚で充満していて、休みたいとは思っていたが、リスティアータに勧められたのはアルビオールの一室。

この事態の中で自分1人が休む事に、ティアは遠慮をしたのだが、リスティアータに名を呼ばれ、メッと、言われて、固まった。

いや、全然怖くないが。

それは他の面々も同様で、メッと言ったリスティアータと、メッと言われたティアを見る。

「…分かり、ました」
「そう」

押しに負けて頷いたティアに、リスティアータはにっこり笑ってティアの頭を撫でた。

所謂、いい子いい子である。

全員が一瞬キョトンとして『ティアがリスティアータになでなでされるの図』を眺める。

「〜〜〜っ」
「じゃあ、早速休みましょう、ティア」
「〜〜〜っ」

暫く滑らかなティアの髪を撫でたリスティアータに促され、コクリと頷いたティアが部屋に消える。

何故か一緒に部屋に入ったリスティアータを追い掛けて、クロがぱたぱたと駆け寄る。

それに気づいたリスティアータは、途中でクロを抱き上げて扉を閉じた。

因みに、ティアの顔は耳までもが真っ赤っ赤だった。




素直に備え付けのベッドへと横になったティアの傍ら、ベッドの端に腰掛けて、リスティアータはティアの額に手を当てた。

突然の事に慌てたティアだったが、それが熱を知るためとすぐに悟る。

当てられた手が心地よくて、ふっと力を抜く。

途端に押し寄せた眠気に、ティアはやはり疲れていたのかと、鈍った意識で思った。

「お熱はないみたいね」
「は、い…」
「…眠いのなら、眠っていいのよ、ティア」

手を離したリスティアータに返事をするのも億劫で、

リスティアータの声を最後に、ティアの意識は深く深く沈んでいく。

さらり、さらりと、緩やかなリズムで頭を撫でられるのが、ひどく心地よかった。

「…おやすみなさい…」




ティアが完全に眠った頃、頭を撫でていた手を止めて、フィエラは1人、ぎゅっと自らの手を握り締めていた。

最初に、ティアがシュレーの丘から戻って来た時から、ずっと感じていた。

色濃い淀み…………障気の、気配。

「……」

フィエラは静かにティアの手を取り、目を閉じて集中する。

その間僅か数秒。

顔色の回復した様子のティアの手を静かにベッドに下ろし、フィエラは立ち上がろうとしたのだが、眩暈に襲われてズルズルと床に座り込み、前のめりに倒れないように咄嗟に両手を床につく。

「…ぅっ…」

全身に感じる重い倦怠感。

揺れる視界が気持ち悪くて、ぎゅっと目を閉じる。

ぱたぱたとした足音に、クロが近くに来たのだと、意識の遥か遠い所でそう思っていた。


「にぅぅぅう!」


クロが一声鳴いた、途端、

するり、と、

上質な布が肌の上を滑るかのように、

それまでフィエラの総ての支配していた感覚が、消えて無くなって、

「…え?」

フィエラはパチリと目を瞬いた。
もう、眩暈はなく、倦怠感もない。
床に両手をついていた上体を起こす、と。

けぷり、と。

さも満腹と言わんばかりにけぷりと、げっぷをするクロがいて。

「………あら?」

フィエラは1人、こてりと首を傾げるのだった。



ティアが目を覚ますと、未だ傍にいるリスティアータが目に入った。

膝の上で丸くなったクロを撫でていたリスティアータは、そんなティアの視線に気づき、ふんわりと微笑んだ、のだが、

「…リスティアータ様?」

一瞬、いつもの優しいリスティアータの笑顔が泣きそうに見えて、ティアは思わず呼んでいた。

「なぁに?ティア」

しかし、次の瞬間にはすっかりいつも通りで、ティアは気のせいかと頭を振って、ふと、

「今どの辺りですか?」
「そんなに長く眠っていなかったから大丈夫よ。そろそろ魔界を出る頃かしら?」

随分長く寝ていたのではないかと飛び起きたティアに、リスティアータは安心させるように言うのを聞いて、ホッとしたティアは、自身の変化に漸く気づいた。

体が、軽い。

「体調はどう?まだ辛いようなら」
「いえ、もう大丈夫です」
「そう。良かったわ」

確かめるように少し体を動かしたティアは、回復の速さを不思議に思いながらも、リスティアータ達と共に皆のもとへと戻った。




執筆 20110213




あとがき

久々に登場したかと思えば、クロにまさかの特殊能力の巻(笑)
ただ、あくまで特殊能力なので、普通にご飯も食べまする。
主食じゃないから!

にしても、ホントにクロは久々ですね。

書かないだけで、フィエラとは四六時中一緒にいるんですが、登場キャラが多すぎて、登場させる余裕がないのが正直な話(爆)
せっかくのオリキャラなんだから活かせよって自分でも思い続けてはおります。
思っては。

…くそぅ!
カンタビレはすごい楽なのにぃっ!(脱兎)

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