セントビナー崩落
アルビオール二号機で待っていたギンジの妹、ノエルの操縦で、ルーク達はセントビナーが崩落する前に住民を救出する事に成功した。
障気の海に浮かんだ大地は、正にパズルから零れ落ちたピースのようで、ホッとしながらも老マクガヴァンの表情は暗い。
「助けて頂いて感謝しますぞ。しかし、セントビナーはどうなってしまうのか…」
「今はまだ浮いているけれど、暫くするとマントルに沈むでしょうね」
「そんな!何とかならんのか!?」
「ここはホドが崩落した時の状況に似ているわ。その時は結局、一月後に大陸全体が沈んだそうよ」
老マクガヴァンのセントビナーへの思いを少なからず知るティアは、言いにくそうにしながらも包み隠さずに事実を伝える。
すると、
「ホド…。そうか…これはホドの復讐なんじゃな」
ふっと、老マクガヴァンが全身から力が抜けたように俯き、そう呟いた。
ホド…復讐…
強い繋がりをもつガイとティアは、その言葉を訝しみ、
「「…………」」
リスティアータとジェイドは、無言でそれを聞いていた。
「…本当に何ともならないのかよ」
「住む所がなくなるのは可哀想ですの…」
「大体大地が落っこちるってだけでも常識外れなのにぃ、何にも思いつかないよ〜。超無理!」
各々セントビナーを助けたいと必死に頭を捻っていると、ルークがハッとしたように言った。
「そうだ、セフィロトは?ここが落ちたのは、ヴァン師匠がパッセージリングってのを操作してセフィロトをどうにかしたからだろ。それなら、復活させればいいんじゃねーか?」
「でも私達、パッセージリングの使い方を知らないわ」
「じゃあ師匠を問い詰めて…!」
ティアに言われて返したルークのはどう聞いても思い付きで、落ち着かせようとガイが宥める。
「おいおい、ルーク。それは無理だろうよ。お前の気持ちもわか、」
「わかんねーよ!ガイにも、みんなにも!」
「ルーク…」
「わかんねぇって!アクゼリュスを滅ぼしたのは俺なんだからさ!でも、だから何とかしてーんだよ!こんな事じゃ罪滅ぼしになんねぇってわかってるけど、せめてここの、」
「ルーク!」
「っ!」
ティアやガイの声を跳ね除けて、ただがむしゃらに自分が、自分だけがと口にするルークを、ジェイドが叱責する。
あまりに強い声に、ルークがひゅっと息を呑んだ。
「いい加減にしなさい。焦るだけでは何も出来ませんよ。とりあえずユリアシティに行きましょう。彼らはセフィロトについて我々より詳しい。セントビナーは崩落しないという預言が狂った今なら…」
「そうだわ。今ならお祖父様も力を貸してくれるかもしれない」
ジェイドとティアの言葉で一縷の望みが見えた所で、今度は静かにジェイドは言った。
「それとルーク。先程のあれはまるでだだっ子ですよ。ここにいるみんなだって、セントビナーを救いたいんです」
ルークはハッとする。
自分が自分だけがと口にするばかりで、誰の声も聞こうとしていなかった自分に気づき、ルークは俯いた。
「…ごめん…。そうだよな…」
「まぁ、気にすんな。こっちは気にしてねぇから」
叱られて悄げたルークの肩を、ガイが殊更明るく叩き、一行はひとまずユリアシティへと向かった。
ユリアシティに向かっている最中、ルークはぼんやりと外を見やりながらさっきの事について考えていた。
自分だけではないのだと、そう言われて、不思議と心が軽くなった。
同時に、アクゼリュスの時とは違うとも。
あの時は、自分だけだった。
親善大使、預言、ヴァン師匠の言葉、英雄、超振動、瓜二つのアッシュの存在、イオンは助けられたがリスティアータは行方が知れず、リグレットには出来損ないと言われ、何か知っている筈のジェイドとイオンは黙りで、……自分以外の全てが、彼等を信じる事が、不安でしかなかった。
でも、今は………
ふと、
(ジェイドに叱られたのって、初めてじゃねぇ?)
そんな事を思って。
次いで思い出したのは、まだ出会ったばかりの、タルタロスを見て回っていた時に言われたリスティアータの言葉。
『怒って貰えるというのは、とても幸せな事よ』
『怒られると言うことは、怒ってくれる人が傍にいるという事でしょう?ちゃんと自分を見て、注意してくれる人がいるのは、とても幸せな事よ』
『何をしても誰も怒らないと言うことは、誰も傍にいない…誰も、自分を見ていないという事だもの』
(……っ!)
そう、だ。
あのジェイドが、
今まではどんなに我が儘を言っても、どんな態度をしてても、ルークに興味はないのだと、全面に現れていたジェイドが、
自分を叱ったのだ。
ガイだって、レプリカだって知らない、復讐相手の息子だった時からずっと、根気よく色んな事を注意してくれてた。
ティアに至っては、最初から、我が儘放題でうぜぇばっかの自分相手に、見捨てずに何度も何度も。
(うああ…何だ…ヤバい…)
目の奥が熱くなるのに、慌てつつ俯き、ぐっと奥歯を噛み締める。
今初めて、リスティアータの言葉の意味を実感した。
アラミス湧水洞でガイが待っててくれた時にも思ったが、今はそれ以上に、
(……………うれしいんだ、俺)
執筆 20110212
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