老人と侮るなかれ
操縦者と浮遊機関を救出すべくルーク達の出発を見送って、リスティアータ達もまたイエモン達をタルタロスへ案内する為にシェリダンを出発した。
道中は和やかな雰囲気、とは言い難い部分もありつつ、無事にシェリダン港に辿り着く。
椅子に座ったリスティアータとは違い、歩く事を選んだイオンは若干の疲れを見せていた。
それに比べて、とカンタビレはイエモン達を見やる。
子供のようにきゃっきゃと(時にぎゃいぎゃいと)しつつタルタロスを解体する彼等は、未だにピンピンしている。
寧ろタルタロスに着いてからの方が溌剌としているかもしれない。
-----ギャギャギャギャ、キュインッ
「呆れる程元気なじいさんばあさんだね」
------ガンガン!ガッコン!
-----おや、こりゃ廃盤になった部品じゃなかったかい?
「ふふふ、そうね。素晴らしい事だわ」
-----おお!こっちゃぁ今度の実験につかえそうじゃ!
-----この際じゃ、外しちってかまわんじゃろ
「僕も尊敬します」
-----こりゃ貴重なレアパーツじゃ!見てみぃタマラ!アストン!、ぅいっ!
----なんだいイエモン、あんたまた腰をやったのかい。
-----ジジイがはしゃぐからじゃ
のほほんと会話するリスティアータ達の少し先で、イエモンは1人悶絶していた。
スキップスキップらんらんらんなイエモン達とシェリダンに戻り作業を開始して暫くすると、飛行艇ドックの扉が開かれ、銀髪の青年が入ってきた。
「爺ちゃん!」
「ギンジか!」
祖父と孫の感動の再開、になるかと思ったが、
「はい、浮遊機関!」
「壊れとらんじゃろうな」
「大丈夫だって」
この祖父にしてこの孫あり。
どちらも優先順位は音機関が先だったようだ。
嬉々として浮遊機関を受け取ったイエモンがアストンに渡すべくドックの奥に消えると、タマラが呆れながらギンジに近寄った。
「あんた達はこんな事になっても相変わらずだねぇ」
「あはは」
「まぁ何にせよ、無事で何よりだよ」
大らかに笑ったタマラに、ギンジも笑顔を返した所でイエモンが奥から戻ってくる。
「破損もないようじゃし、すぐに取り付け終わるぞい」
「ルーク達ももうシェリダンに戻っているんですよね?」
「あ、はい!もうすぐここに来られると、」
それを聞いてイオンがギンジに訊いた時、ルーク達がドックに来た。
しかし、その様子は明らかに緊迫している。
「おお!帰ってきおった!今アストンが浮遊機関を取り付けとるぞ!」
とイエモンが歓迎したのだが、最後に入ったガイが扉を閉じた途端、激しい音を立てて叩かれた。
「怪しい奴!ここを開けろ!」
数人掛かりで蹴破ろうとしているのか、扉を押さえるガイの体がその度にはね飛ばされそうになる。
見かねたカンタビレが手を貸そうとしたのだが、ガイの女性恐怖症を思い出して止めた。
(どんなに男勝りでも、カンタビレもしっかり対象内だった)
だったら野郎が手伝えよとジェイドを見れば、当人は視線に気付いたに決まっているのに無視をする。
カンタビレは呆れて溜め息を吐いた。
「なんの騒ぎだい?」
「キムラスカ兵に見つかってしまいました」
そう説明したジェイドに、タマラは今更ながらにジェイドがマルクト軍人だと思い出したようである。
それだけ国籍に興味がなかったのだろう。
「そうそう、おたくらの陸艦から部品をごっそり頂いたよ。製造中止になった奴もあったんで、技師達も大助かりさ」
「大助かりじゃなくて大喜びの間違いじゃないのかい?」
「とても楽しそうでした」
「違いない!」
カンタビレの軽口にリスティアータが混じり、イエモン達がカラカラと笑う。
早くもイエモン達に馴染んだ様子に苦笑しつつイオンが言った。
「おかげでタルタロスは航行不能です」
「でも、アルビオールがちゃんと飛ぶならタルタロスは必要ないですよねぇ」
「『ちゃんと飛ぶなら』とはなんじゃ!」
アニスがそう言った時、ドックの足下からアストンの憤慨した声が。
驚いた一行が辺りを見れば、音機関っぽいとは思っていたものの、何の穴か解らなかった部分に下から床がせり上がる。
昇降機であったらしいそこからは怒った顔のアストンが現れた。
「わしらの夢と希望を乗せたアルビオールは決して墜落なぞせんのだ」
「…墜落してたじゃん」
両手に拳を握って熱く宣言したアストンにルークがツッコミを入れる。
と、
「おお―いっ!早くしてくれ!扉が壊される!」
あ、という顔をしたのは1人や2人ではなかったが、気まずいので全員がスルーした。
「アルビオール二号機は?」
「うむ、完成じゃ!二号機の操縦士も準備完了しておるぞ」
そうとなれば、急ぎセントビナーへ向かうのみとなった一行に、イエモンが力強く頷く。
「よし。外の兵士はこちらで引き受けるぞい。急げ!」
「ですが、外の兵はかなり気が立っていますわ。私が名を明かして…」
「時間がないんでしょう?」
事態を心配したナタリアを、タマラはピタリと止める。
ハッとした顔で自分達を見たナタリアに、タマラは余裕綽々に笑った。
「私達に任せて下さいよ」
「年寄りを舐めたらいかんぞ!さあ、お前さん達は夢の大空へ飛び立つがいい!」
彼等の笑顔に後押しされて、ルーク達は昇降機に乗る。
「後は頼みます!」
ガイ以外の全員が昇降機に乗ったのを確認して、ジェイドが昇降機を操作すると、ギリギリまで扉を押さえていたガイが下がりだした昇降機に素早く飛び乗った。
と、途端に破られた扉から2人のキムラスカ兵が入ってくる。
それに立ちふさがるイエモン達は、ルーク達でさえ適わない程に力強かった。
「この先には行かせんぞい!わしらシェリダンめ組の名にかけての!」
執筆 20110212
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