最強?
調子を何とか取り戻したジェイドに物凄くにこやかに却下され、リスティアータはへにゃりと眉を下げた。
「駄目かしら…」
「駄目ですねぇ」
ますます眉を下げたリスティアータに向かい、ジェイドは続ける。
「確かにその椅子を使えば救出作業は可能でしょうが、その作業中…つまりは亀裂の上空にいる最中に襲われたら、我々にどうしろと言うんです?こちらに飛ぶ術は無くとも向こうにはアリエッタがいる。洟垂れは退けましたが、今から魔物を使って貴女を攫いに来ない確率はゼロではない。その時我々に出来る事など、高が知れていますよ。精々ここから譜術を放つぐらいは出来るかもしれませんが、貴女が魔物に捕らえられたら手を止めざるをえません。貴女にまで当たってしまいますから。運良く魔物のみに当たったとしても、魔物と一緒に地面に叩きつけられて命を落とす事になっては、まぁ、面倒です、色々と。さて、他にも理由はありますが、まだ説明が必要ですか?」
朗々と説明したジェイドが再度問うと、リスティアータはきょとりと瞬きをして首を横に振った。
そして実にほのぼのとした様子で頬に自らの手を当てて言うのだ。
「私ったら、そこまで考えていなかったわ。確かに、ジェイドの言う通りね。無茶を言って、ごめんなさい」
「いえいえ、どう致しまして」
そう言いながらも、ジェイドはリスティアータを納得させられた事に安堵する。
と、
「ありがとう、ジェイド。心配してくれて」
にっこり、ほんわかと、本当に嬉しそうに向けられた感謝は、未だ奥底で揺れていたジェイドにとっては不意打ちで、
「…どう、致しまして」
その不意打ちの衝撃の程度は、微妙に開いた間に顕れていた。
一方、その時。
「…つ、強ぇ…」
「ルーク、それはどっちに対してなんだ?」
「そりゃぁ…」
「はは、悪い悪い。訊くだけ無駄だな」
「大佐も強いのは確かなのに…」
「本当に、不思議ですわねぇ…」
「リスティアータ様のカウンター、侮り難しって感じ?」
「でも、考えてみると、リスティアータに『勝てた』奴って…いたか?」
「…あ〜…」
「見たこと…ない、かも?」
「リスティアータ様は凄いんですの?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」
「…まじ強ぇ…」
そんな会話が繰り広げられていて、それはイオンが苦笑いしながらも注意するまで続く。
「あの、今はセントビナーの皆さんを非難させる方法を考えましょう」
「「「「「あ」」」」」
そう。
今は緊急事態真っ只中。
第三師団の兵達も、どうしたらいいのかと師団長であるジェイドの指示を待っていた。
ルーク達は自分達の緊張感の無さを激しく後悔しながら、再び考えを巡らせる。
リスティアータの椅子の案は現段階では最有力候補だが、ジェイドの言った不安要素を含め、実行は難しいだろう。
(何より、なんか落っこちちまいそうで怖ぇし…)
そんなルークの心の呟きは、ジェイドを含めた全員が思っていたりした。
言わなかっただけで。
「んも〜!リスティアータ様の椅子みたいに空を飛べればいいのにぃ〜!」
「…空か」
アニスが癇癪を起こしたように頭を抱えて叫ぶと、ガイが閃いたとばかりに指を鳴らした。
「シェリダンで飛行実験をやってるって話を聞いた事がある」
「飛行実験?それって何なんだ?」
聞き覚えの無い言葉にルークが首を傾げて問う。
それにガイが答えるに、教団が発掘した大昔の浮遊機関で、ユリアの時代はそれを乗り物につけて空を飛んでいたと言う。
イオンも知っていたようで、既に飛行実験は始まっているらしい。
「それだ!その飛行実験に使ってる奴を借りて来よう!急げばマクガヴァンさん達を助けられるかも知れない!」
「しかし、間に合いますか?アクゼリュスとは状況が違う様ですが、それでも…」
ジェイドの言う事は尤もであったが、ティアがヴァンから伝え聞いた話では、ディバイディングラインを越えるまで、かなりの日数が掛かったと言う。
具体的な日数がわからない分、不安要素は残ったが、
「やれるだけやってみよう!何もしないよりマシだろ!」
そう、ルークの言う通り、やるしかないのだと、皆がそう心に刻み込んだ。
「そうと決まれば、順序は簡単です。セントビナーの住人は第三師団で護衛しながらエンゲーブへ送り届けます。我々はタルタロスでシェリダンを目指しましょう」
「マクガヴァンさん達は」
「取り残された中には兵も多数居ますから、任せるしかありませんね」
「分かった」
まだ、諦めるもんか。
1人手を握り締めたルークの内心は、表情からも伝わって、そこから、ルークが大きく成長していることが分かって。
輪から一歩離れた所からそれを見ていたリスティアータは、自らも同じ様に手を握り締めた。
執筆 20101031
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