急いて、事を勘違い
珍しく怒りを露わにしたジェイドの言葉に、ルーク達はハッと息を呑んだ。
状況は、アクゼリュスとは違うが、似た部分はある。
街に取り残された人々は、アクゼリュスでリスティアータが救った人数よりは少ない。
つまりは、彼女の強力な譜歌であれば、救えると言うことになる。
彼女ならではの安全に街へ移る手段もあるのだから、確かに今すぐ実行には移せるのだ。
しかし、それはつまり、リスティアータがまたあの時と同じ様に傷つくという可能性もあるという事で。
漸くそれに思い至って、ルーク達も猛然とリスティアータを取り囲んだ。
「そんなの駄目だ!」
「私も反対です!」
「一体何が大丈夫なんですの!?」
「全然大丈夫じゃなかったじゃないか!」
「何言い出しちゃってるんですかぁ!」
「他にも方法はある筈です!」
「ミ、ミュウも反対ですの!」
矢継ぎ早に反対していたルーク達は、ふと、先程からリスティアータの反応が無いのに気がついた。
おかしいと思って彼女を見れば、きょっとーんと、緊張感の欠片もない表情のリスティアータがいる。
「…リスティアータ?」
おーい、と言いながら、ガイがリスティアータの視界で手を振ってみると、目をぱちぱちと瞬かせたリスティアータは、こてりと首を傾げた。
ん?何か反応が違くない?と、ルーク達はここで漸く気付き、何故だか彼女につられて首を傾げる。
ジェイドも未だ怒りの中に居ながらも、訝しげに眉を寄せた。
「…えっと…」
膠着した状況の中で、リスティアータがぽつりと、
「あの、ね。私がこの椅子で皆さんを乗せて移動させればいいんじゃないかと、思ったのだけれど」
そう、言って。
・・・・・・・・・・
「…は」
ルークが気が抜けた息を吐いたのを始めに、ティアが、ガイが、アニスが、イオンが、ミュウまでもが、どっと疲れを感じて肩を落とした。
「人の話を最後まで聞かないからだよ」
「うっ」
ずっと傍観していたカンタビレが、ニヤリと笑いながら言うのに、返す言葉もなく。
グサッと刺さった言葉の矢にうなだれるルーク達はさて置き、きょとりと瞬くリスティアータとジェイドはと言えば、
「…………」
「…………」
長いこと見つめ合っていた。
片や純粋に返事待ち、しかしもう片方は、自分らしからぬ早とちり(これを早とちりと言わず何と言う)に、生まれて初めてと言って過言ではない早とちりに、思考がすっかり固まっていた。
そんな相手の様子に気づいたリスティアータが、先程ガイにされたように掴まれていない方の手を彼の視界で振ってみる。
「ジェイド?」
と、
スルリと、落ちるようにリスティアータの手から離れた手で、ジェイドは自らの口元を覆った。
「…ジェイド?」
「………ふ-------------…」
そこからまた動かなくなった自分を、リスティアータが呼ぶ。
その声を遠くに聴きながら、ジェイドはそれはそれを深い、全身から空気を抜ききってしまいそうな程に深い溜め息を吐いた。
理由は、冷静さを欠いた精神を落ち着かせる為と、リスティアータの提案に対する呆れ。
それから、
(…何を…焦っているのやら…)
他ならぬ、自分自身への呆れだった。
カンタビレの揶揄には、ルーク達以上に返す言葉もない。
そう。
ジェイドは確かに焦っていたのだ。
彼女は他人に優しく、優し過ぎるが故に限度を知らず、自分が傷つこうとも、いつも誰かを助けようとする。
無論、誰に対してもそうではないと解っていたが、一度とは言え会った相手が含まれていれば、その持ち前の優しさで、無理をして助けようとするかもしれない、と。
そして、それは絶対に阻止しなければ、と。
そうして、焦りに焦った結果があの早とちり。
自らの情けなさに、すぐには立ち直れない程のショックを受けていたが、いつまでもそうしている訳にはいかない。
自分は何か。
しなければならない事は何か。
今は、やるべき事を。
そう自分に言い聞かせ、ジェイドは瞬きひとつする間に切り替えた。
そして、口元を覆っていた手を外し、
いつものように口角を上げて、
にぃっこりと、一言、
「却下です」
そう、答えた。
執筆 20110123
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