Metempsychosis
in Tales of the Abyss

取捨選択

チクチクする。

いや、チクチクなんて生易しい。

ぶっすぶっすと突き刺さる。

言葉が、ではない。

「………」
「………」
「……………」
「……………………」

沈黙が、である。

めっちゃイタイ。

今現在、グランコクマを出発し、テオルの森を進んでいる一行には、凄まじい暗雲が立ち込めていた。

もういっその事ビシバシ言葉の凶器で殺り合っちゃってくれ、とは、パーティーが誇る常識寄り(一部彼方に外れている為、あくまで寄り)思考の保持者たるガイの心の悲鳴だ。

ルークやティア、ナタリアも似たような表情をしている事から、自分と同じ考えなのだろう。

アニスは何故か最初からカンタビレを敵視していたが、それを悪化させたのは間違い無く、カンタビレが耳打ちした内容にある事は解る。

その内容も気にならない訳ではないが、何より空気が空気、つまりは気体なのにイタイ。

マジいたい。

めちゃイタイ。

何だか胃がキリキリと締め付けられるような感覚を覚えるガイを余所に、ジェイドはイタイ空気を丸無視してサクサク進む。

胡散臭い微笑が憎らしい。

イオンもルーク達と同様に2人の険悪さを気にしているが、こちらはただ純粋に心配していると言った方が正しく、怯えているルーク達とは少し違うだろう。

そして、唯一この険悪な雰囲気を治める事の出来そうなリスティアータは、とガイが視線を巡らせば、こちらもジェイドと同じく素知らぬ顔で歩いていた。

あまりに平然としているので、もしかして気付いていないのか?などと一瞬思ったガイだったが、すぐにそれを否定する。

根拠は全くないが、何となく。

語弊があるかもしれないが、何となく、彼女はどうする気も無いのではないか、と、そんな風に感じた。



テオルの森を抜け、リスティアータの椅子を回収し、ローテルロー橋に横付けしておいたタルタロスに着くと、謁見の時に話した通り、ジェイドが師団長を務める第三師団の兵達が既に乗り込み、出発の準備を整えていた。

「師団長、艦の整備、物資の積み込み、全て完了。いつでも出発出来ます」
「ご苦労」

一行が昇降口からタルタロスに乗ると、ジェイドが出迎えた1人のマルクト兵から報告を受ける。

その余りの準備の速さに、ルークは思わずキョトンとした。

「なんつーか…早過ぎねぇ?」

まるでこうなる事を最初から知っていたかのような周到さを指摘すれば、ジェイドはわざとらしく肩を竦める。

「和平の時とは違って第三師団の本体ですから」

優秀なんです。

そうさらりと答えられて、へぇ、と何とはなしにルークも頷いた。

が、

ふと、今の言葉に見逃せない違和感。

それを感じたのはルークだけではなかったようで、

「あの、大佐?」
「何でしょう?」
「今の言葉からすると、あの時タルタロスに乗っていたマルクト兵達は…?」
「あぁ」

おずおずとティアが訊ねれば、またまたわざとらしくも今気付いたかのように手を打ち合わせたジェイドが、あっさりと答えてくれた。

「捨て駒ですよ」
「「「「「「!?」」」」」」

あっさりと言われた冷酷な答えに、ルーク達は目を剥いた。

「なっ、どういう事だよ!捨て駒って!?」
「言葉の通りですよ」
「だから!どういう事だよ!」
「あの時タルタロスに乗っていたマルクト兵の大半は、軍内で火薬や武器の横流しをしていたんですよ」

そう言われて思い出すのは一度捕まった後、牢屋から脱出しようとしていた時の事。

確かタルタロスの装甲を中から破った火薬について、横流しされようとしていたと言っていた、と。

「モースが戦争を望んでいた事は解っていましたから、和平を成そうとすれば妨害がある事は間違いなかった。勿論、大詠師派である六神将を使っての可能性も想定しました。考えに考えた結果、ピオニー陛下はこう決断されました。ーーーーーー…横流しをしている兵達を捨て駒とする、と」

最悪でも自分と導師さえキムラスカに辿り着ければ良かったのだと、淡々と言うジェイドの態度は軍人のそれ。

イレギュラーな存在が増えつつも、結果は想定通りとなった訳だ。

でも、とルークは拳を握った。

「…かしいだろ…」
「………」
「そんなの!」
「ルーク」
「っ!!」

熱くなったルークを、静かに、しかし重い圧力を持ってリスティアータが呼ぶ。

何故止めるんだ、だって絶対おかしいだろうと、ルークが睨むように彼女を見れば、何とも言えない表情で、ただ首を横に振るリスティアータが見えた。

「解っているわ」
「!」
「ジェイドも、ピオニー陛下も、ちゃんと解っているわ」

だから、それ以上言ってはいけないと、そう言ったリスティアータに、ジェイドは珍しくも苦笑する。

まったく、鈍いんだか聡いんだか解らない。

「その…ごめん、ジェイド」
「気にしなくていいですよ。ルークの言おうとした事は至って真っ当ですから」

頭が冷えたのか、言い過ぎそうになっていた自分が気まずいのか、素直に謝ってきたルークに、ジェイドは再び肩を竦めて見せた。




執筆 20091010




あとがき

ども。
今回はちょこっとネタバラし?みたいな話になりました。

よく【命に優劣はない】とか【人は皆平等だ】とか聴きますが、正直、うちはそれを真っ向からは信じていなかったり。

確かに、世界というより大きな括りで見てみれば、人なんて小さくて、誰も同じに見えるでしょう。
否定はしませんし、素敵な事だとは思います。

でも、それが小さな括りになった時は違うと思うんです。
うちは見知らぬ他人より家族と親友が大事。
それってうち個人が他者に対して優劣を付けているませんか?

そう考えた時、
◆【ほぼ確実に死ぬ】任務
◆誰かが就かなければならない
この条件下で、被害を最小限に収める(善良な兵士を1人でも多く生かす)とすれば、答えは自然と不正をした兵士になるのではないかと思いました。

当然、好き好んで人1人を捨て駒にしようなんて思う訳がないピオニー陛下ですから、皇帝としての決断、つらいだろうな…と思いつつ書いてました。
上に立つ者はつらいですね。

そして改めて実感しました。

うち、ピオニー陛下に思い入れ強過ぎる(爆)

で、ではまた(;^-^)/

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