Metempsychosis
in Tales of the Abyss

乱入、再び

「さて、いい感じに落ち着いた様ですし、そろそろセントビナーへ向かいましょうか」

ルークが不安がっていたような事態にもならなかった所でジェイドがにこやかーに纏めると、アニスさらりと別行動をすると言い出した。

「ああ、使者の方から聞きました。セントビナーに行くって。でもイオン様はカースロットを解いてお疲れだし、危険だから私とここに残ります」

連絡を受けた時から考えていたのだろうそれはアニスの中では決定事項のようで、言葉もどこか単調に聞こえる。

尤も、その理由は間違ってはおらず、まず反対される事はない、筈だったのだが。

「アニス、僕なら大丈夫です。それに僕が皆さんと一緒に行けば、お役に立てるかも知れません」
「イオン様!?」

他ならぬイオン本人に覆され、アニスは目を見開いた。

何とかかんとか説得なり丸め込むなりしなければ!と慌てて振り返るも、

「アニス、それに皆さん。僕も連れて行って下さい。お願いします」

イオンの真剣な目を見てしまえば二の句が継げず、アニスは間抜けにもぱくぱくと無意味に口を動かすしかない。

イオンの気持ちが伝わったのか、はたまたその儚げな見た目に反する頑固さをこれまでの道中で知っていたからか、ルーク達はイオンの希望を受け入れた。

「師匠がイオンとリスティアータを狙ってんなら、何処にいても危険だと思う。いいだろ、みんな」
「目が届くだけ、身近な方がマシという事ですか。まぁいいでしょう」

ジェイドにまで認められてしまえば、もうアニスにはどうする事も出来ず、

「〜〜〜〜〜もうっ!イオン様のバカ!」

自分の主に精一杯の文句を言うしかなかった。



イオンの同行も決まり、ガイ達の支度が整うのを待っていると、ノックもなく唐突にドアが開かれた。

「でっ!」

割と勢いよろしく開かれたドアに、運悪くもその軌道上に立っていたルークは腰を押さえて沈み込む。

どうやらドアノブがめり込んだらしい。

「ルーク、大丈夫?」

当たり所次第では結構危険なのだが、皆ルークより開けた人物を気にした。

襲撃かと皆が警戒態勢をとる中で、リスティアータだけが何の警戒もなく撃沈したルークに駆け寄ってめり込んだ辺りを撫でてやる。

痛みに声も出ないルークはどう見ても大丈夫そうには見えないが、大丈夫かと訊いてしまうのは人の習性に近いのだろうか。

そんな中、3人を除く面々は乱入者にすぐにそれを解く。

「長話は終わったかい?」

ドアを開けた乱入者、カンタビレに、悶絶するルークの姿を見やり、ジェイドはいつかの皇帝の姿を思い出しつつ頷きを返した。

そのジェイド、実はルークよりドアの近くにいたにも関わらず、経験と勘でドアが開く直前にひょいっと軌道上から逃げて危機を回避していたりするのだが。

「……ええ、まぁ。貴女の方こそ、旅支度は調ったんですか?」
「ああ、まぁ一通りね」
「え?」

2人の会話に驚いたのはティア。

てっきり最後尾を付いてきているものと思っていたのだ。

ドアが開け放たれてカンタビレが現れるまで、居なくなっている事に全く気付かなかった。

そう言えば、宿屋に入って以降、姿を見ていなかったような気がするが。

ナタリアも同様だったらしく、ぱちくりと目を瞬かせている。

「まぁ、全然気付きませんでしたわ。一体いつからいらっしゃらなかったんですの?」
「宿屋に入る前だったかねぇ」
「そんなに前から!?」

存在感の強烈なカンタビレが居なくなっても気付かなかった自分にティアは若干落ち込むが、実際はカンタビレがそれだけの実力者だと言うことだ。

と、カンタビレは漸く増えた面子に目を向けた。

「導師、お久しぶりです、と言うべきですかね?」
「貴女は…カンタビレ、でしたか」
「こうして直に会うのは二度目です。初対面は随分前ですので、導師が覚えて(...)なくても仕方ないでしょう」

不安げに、様子を伺うようにするイオンにカンタビレがそう言うと、見るからにホッとした様子でイオンは息を吐く。

次いで、カンタビレはかなり置いてけぼりにされているガイを見た。

「えーっと…?」
「あたしはカンタビレだ。これから同行する事になった。理由は追々話すが、まぁ、よろしく」
「あ、あぁ、俺はガイ。ガイ・セシルだ。こっちこそ、よろしく頼むよ」

未だ混乱しながらも爽やかに応えたガイ。

それから、最後に…

「久しいね、アニス・タトリン」
「…………」

ただ一人、未だ警戒態勢を解かないアニスは、それまでもずっとカンタビレを睨むように見続けていた。

それに気付かぬカンタビレでもなく、好戦的な笑みを向けてやれば、アニスは更に目を鋭くする。

そんな少女をふん、と鼻で嗤い、カンタビレは徐にアニスに歩み寄った。

勿論アニスは身構えたが、それを上回る動きで身を屈め、

「───────?」

何かを囁いた。

「っ!!」

途端、怯えた様に体を揺らしたアニスは、次の瞬間には再び、否、先程まで以上の敵意を露わにカンタビレを睨み付ける。



そんな自然と緊迫した雰囲気の中で、

「痛いの痛いの飛んでいけー」

未だ復活の兆しの見えないルークの腰を撫でる、リスティアータの妙な呪文が虚しく部屋に響いた。




執筆 20091002

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