Metempsychosis
in Tales of the Abyss

明かされた過去

カンタビレについての話は一先ずガイ達と合流してからという事になった。

理由は単純で、カンタビレが誰かが増える度に説明するのを面倒臭がったからだ。

尤もな意見に異論は無く、ガイの運ばれた宿屋へと向かった。



一歩、また一歩と宿屋へ近づく毎に、ルークの口数は減りっていった。

ティアに背を押され、どんな事実があろうとガイを信じて向き合おう…そう決めたとは言え、やはり怖いだろう。

敢えて誰も話さず歩いて行けば、あっという間に宿屋の前へと着いていた。

と、見張りをしていたマルクト兵が、こちらに気づき敬礼をする。

「運ばれた方の解呪に成功したようです」

兵に知らされた内容に、ルークはホッと安堵の息を吐いた。

ガイ達のいる部屋を教わって入った宿屋は、首都にあるだけあってかなり豪華な造りなのだが、ルークにそんな事を気にする余裕がある訳もなく早足に歩く。

しかし、教えられた部屋の前に着くなり、ピタリと足を止めてしまった。

「ルーク?」

ティアが声を掛けるも、当人はじっと閉ざされた扉を見つめている。

キツく握られた両手が、微かに震えていた。

あと一歩が、踏み出せない。

傷つけられる悲しみを知るからこそ、ガイを傷つけていたかもしれないと思うと、足が動かなかった。

と、

「……!」

視界の端で、柔らかに何かが揺れて、堅く握った右手が、ふわりと何かに包まれたのを感じ、ルークはビクリと肩を震わせる。

慌てて見やれば、柔らかな黒髪を揺らし、傷跡の色濃い両手でルークの手を包むリスティアータの姿があった。

リスティアータはただただ黙って、ルークの手を撫でた。

すりすり、すりすりと。

防具を付けているのだから、さほど温もりが伝わる訳もないと思うのに、気づけば震えは止まっていて、ふっとルークは息を吐いた。

そうして気づく。

撫でられた右手ではない、もっと広く、深い所がほっこりと温かい事に。

「…ありがとう」

気恥ずかしいのか、軽く頬を掻きながら言ったルークに、リスティアータはふんわりと微笑んだ。

そして、意を決したルークが扉を開ける。

「ガイ!ごめん…」
「……ルーク?」

意気込む余りノックを忘れたルークに開口一番謝られ、ベッドに座っていたガイが目を瞬かせた。

「俺…きっとお前に嫌な思いさせてたんだろ。だから…」
「ははははっ、何だそれ。…お前の所為じゃないよ」

ルークの言わんとしている事を察し、ガイはいつもの様に笑う。

しかし、ふと笑みを消し、目を閉じた。

「俺がお前の事を殺したい程憎んでたのは、お前の所為じゃない」

そう、ぽつりと呟かれた声は余りに静かで、皆が言葉を失い、ルークは一瞬呼吸すら忘れた。

そんな様子を悟ってだろう、ガイはひとつ苦笑して再び目を開く。

「俺は…マルクトの人間なんだ」
「え?ガイってそうなの?」
「俺はホド生まれなんだよ。で、俺が五歳の誕生日にさ、屋敷に親戚が集まったんだ。んで、預言士が俺の預言を詠もうとした時、戦争が始まった」
「ホド戦争…」
「ホドを攻めたのは、確かファブレ公爵ですわ…」
「そう。俺の家族は公爵に殺された。家族だけじゃねぇ。使用人も親戚も。あいつは、俺の大事なものを笑いながら踏みにじったんだ。…だから俺は、公爵に俺と同じ思いを味あわせてやるつもりだった」

ティア、ナタリアの言葉に頷いて淡々と話すガイ。

彼の瞳には、何年、何十年経とうとも、消える事のないファブレ公爵への憎悪の炎が揺れていた。

と、それまで黙って聞いていたジェイドが歩み寄り、訊く。

「貴方が公爵家に入り込んだのは復讐の為、ですか?ガルディオス伯爵家 ガイラルディア・ガラン」
「…うぉっと、ご存知だったって訳か」
「ちょっと気になったので、調べさせて貰いました。貴方の剣術はホド独特の盾を持たない剣術、アルバート流でしたからね」

あっさりと本名を呼ばれ、ガイはぎこちなくもおどけて見せる。

ガイ自身、旅を始めた当初は何度かジェイドから疑心の目を向けられた事は気付いていたが、一緒に行動しているからと油断していた。

ジェイド自身が調べなくとも、マルクト領の街や領事館に行けば調べるように指示を出す事も不可能ではない。

「…なら、やっぱガイは俺の傍なんて嫌なんじゃねぇか?俺はレプリカとは言え、ファブレ家の…」
「そんな事ねーよ。そりゃ、全く蟠りがないと言えば嘘になるがな」
「だ、だけどよ」
「お前が俺について来られるのが嫌だってんなら、すっぱり離れるさ。そうでないなら、もう少し一緒に旅させて貰えないか?まだ確認したい事があるんだ」

どこまでも後ろ向きなルークの言葉を強く否定して、ガイは真っ直ぐに言った。

その目をルークも真っ直ぐに受け止めると、しっかりと頷く。

「…分かった。ガイを信じる…いや…ガイ、信じてくれ…かな」
「はは、いいじゃねぇか、どっちだって」

そう笑ってバシバシとルークの肩を叩くガイは、間違い無くルークの親友だった。




執筆 20090828

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