Metempsychosis
in Tales of the Abyss

雪国散策

「おや、お出掛けですか?」

不意に掛けられた声に、フィエラはドアノブに掛けた手もそのままに足を止めた。

振り返ればジェイドがにこやかに微笑みながら歩み寄って来る所だった。

「あら、ジェイド。こんにちは」
「はい、こんにちは。何か外に用事でも?」
「いいえ。少し辺りをお散歩しようと思って」

雪国に来たのは初めてなので、と言ってにっこり笑うリスティアータはとても輝いて見える。

しかし、まだ陽が高く街の治安も良いとは言え、1人で出歩くのはいくらなんでも見逃せない。

「お1人でですか?」
「はい」
「……はぁ」

念の為にとジェイドが訊けば、これまた輝く笑顔で頷く。

それにやれやれと溜息を吐かれ、不思議そうにフィエラは首を傾げた。

「駄目かしら?」
「いいえ。私も行きます」
「え?」
「おや、いけませんか?」
「い、いえ…」

きょとりと目を瞬かせると、逆に聞き返されて戸惑う。

そんなリスティアータを満足気に見て、ジェイドは促すようにドアを開けた。

と、

「いいんですか?」

その問い掛けにジェイドは目を細める。

一見同行して貰う事への遠慮にも聞こえるが、違う。

付いてきてしまっていいのかと、そう言いたいのだろう。

それは似たようで全く違う。

意味深にも感じられる問いに、ジェイドは軽く肩を竦めた。

「ご心配なく。ルークなら先程戻ってきました。口止め済みですよ」
「あら、そうなんですか」

あっさり納得されて、内心やはりと確信する。

「……」
「それでは、お願いします」
「、はい」

ぺこりとリスティアータに頭を下げられて、ハッと我に返った。



ゆっくりと、降り続く雪を、白銀に埋もれた街並みを、行き交う人々を、1つ1つを眺めながら歩くリスティアータ。

彼女のペースに合わせて歩きながら、ジェイドもまた懐かしい、全くと言っていい程変わらない街を見つめた。

彼女は何となく歩いているようで、ふと横路に逸れては大して面白くもないだろう住宅街へと向かう。

流石に薄暗い方に向かいかけた時は止めながらも、ジェイドは特に何も言わなかった。

本来なら無駄に歩き回るより自分が案内するべきなのだろうとジェイド自身分かっているが、不思議と行動に移す気も起きないまま、リスティアータと並んで無駄に歩き回る。

時々されるリスティアータからの質問にジェイドが答えるのを繰り返し、気づけば公園に近づいていたらしい。

賑やかな子供達の声が聞こえた。

「あら、公園ですか?」
「ええ。丁度いいですから、少し休みますか」
「はい」

ジェイドは足を踏み入れた公園の出入口付近に設置されたベンチに積もった雪を払うと、リスティアータに座るように促し、自身も隣に座った。

「まぁ…」

長い時間が経っていたらしく、陽が随分と傾いている。

直に空が赤く染まるだろう。

陽に煌めく雪に感嘆の息を吐いたリスティアータを見つめ、ジェイドは静かに視線を自分の手へと落とす。

ふと、訊いた。

「ご存知なんでしょう」
「はい」

訊く、と言うより確認だったうえ、何を、とも言っていない。

前触れもない問い掛けだったにもかかわらず、リスティアータは普通に頷いた。

まるで訊かれる事を知っていたかのように。

そう思い、ジェイドはすぐに否定した。

知っていたのではなく、気付いていたのだろうと考えを改める。

自身の過去を知られ、どう思われるのかという、不可思議な精神のブレに。

「それで、」
「?」
「……」

ジェイドは口を閉ざした。

ふと、自分が何を訊こうとしていたのかが解らなくなった。

ど忘れなどという理由ではなく、リスティアータが自分の過ちをどう思っているのかが、酷く気になり、それが妙に衝動めいていて、思考が止まる。

---何故だろうか。

と、

「好きですよ」

唐突に言われ、ハッと我に返り彼女を見れば、柔らかく微笑んでいた。

「は?」
「私は『今』のジェイド、とても好きです」

ふんわりと、紡がれた言葉にジェイドは珍しく目を瞬かせた。

当然、リスティアータの『好き』には恋愛めいた色はなく、友人などに向ける親愛なのだろう。

それはすぐに理解できた。

問題はそこではない。

彼女は『今』のジェイドを好きだと言った。

取り返しのつかない過ちを犯し、今も多くの人々を傷つけている原因を作り出した、確かな罪を負った、『今』のジェイドを。

それを受けて、ジェイドが最初に思った事は、嬉しいなどの喜びではなく、何となく一本取られたような、悔しさによく似た感情だった。

「……ありがとうございます」




執筆 20090524

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