謁見
ルーク達が謁見に来た。
皇帝私室にやって来た兵士からそう伝えられ、明らかにホッとした様子のピオニーがそそくさとドアへと向かう。
「おや」
「…チッ」
それまで実に愉し気に君主を追い回していたジェイドが残念そうに肩を竦め、カンタビレが忌々し気に盛大な舌打ちをするのを涙の治まったリスティアータはとても微笑まし気に見ていた。
そしてピオニーに続いて部屋を出るべく立ち上がると、ドアの前でピタリと足を止めたピオニーが振り返る。
「あんた達は後からくるといい。積もる話もあるだろう?」
そう言うだけ言って、ピオニーはジェイドと共にさっさと行ってしまう。
またしてもきょとりと目を瞬かせたリスティアータは、次いでクスクスと笑った。
「ふふふ、何だか陛下には驚かされてばかりね」
「振り回されていい迷惑です」
「あら、とても楽しいそうだったわよ?」
心底嫌そうな顔をしたカンタビレに、再びリスティアータが笑う。
それを見ながら、カンタビレの内心は何となく複雑だった。
リスティアータの笑顔が見れた事は嬉しいが、アレ等と仲良しと思われるのは嫌だ。
とは言え、彼女から見ると大概の人間関係が仲良しに分類されてしまうのかもしれない。
ふと、気づけば笑いを収めたリスティアータが再びカンタビレの頬に触れる。
そうして感じたぬくもりに、今度はただただ安藤して。
「また会えて、嬉しいわ」
そして、
「カンタビレに、お願いがあるの」
いつかと同じように、リスティアータは言った。
ルーク達がフリングスに案内された宮殿の一室で待つ事暫し、テオルの森で離脱していたジェイドが現れた。
今度は彼の案内で謁見の間へと通される。
青と白を基調とした謁見の間に入ると、玉座の傍らにはフリングスが控え、その手前、玉座を挟むように軍服に身を包んだ年配の軍人が2人立っていた。
そして、玉座に座るマルクト皇帝へと目を向ける、
と、
「よう、あんた達か。俺のジェイドを連れ回して帰しちゃくれなかったのは」
「………は?」
キムラスカ城とはまた違った壮観な雰囲気を無視したように開口一番にそう声を掛けられ、緊張していたルークは思わず間抜けた顔で首を傾げてしまった。
それはルークだけではなく、ティアとナタリアもまた目を点にしている。
「こいつ封印術なんて喰らいやがって。使えない奴で困ったろう?」
そんなルーク達の様子に目をキラリと光らせながら更に続けるピオニーに、ルークは何と返せばいいのか解らず言葉に詰まった。
「いや…そんな事は…」
即座にはっきり否定出来なかったのは、虚を突かれたからなのか、はたまたそれまでのジェイドのあんまりな言動故なのかは一先ず置いておくとして。
「陛下。客人を戸惑わせてどうされますか」
「ハハッ、違いねぇ。アホ話してても始まらんな。本題に入ろうか」
流石に慣れた様子のジェイドが促して、漸くセントビナー崩落についての話が始まった。
それまでの親しみやすい言動とは打って変わり、皇帝然としたピオニーに圧されながらも、ルークは懸命に言葉を紡いだ。
勢い余って敬語を忘れながらも、セントビナーの人達を助けたい、その一心で。
そんなルークを、傍に控える2人の年配の軍人、ノルドハイムとゼーゼマンがじっと見ていた。
それはまるで品定めをするように。
ルークやナタリア、ティアの一挙一動、言葉の一つ一つ、些細な表情の変化、それら総てを見て、国民の命を預けるに値するのかを試す。
結論だけ言えば、合格、と言ったところだろう。
まだまだ若い彼等は、経験を積んだ軍人達が微笑ましくなるくらいに真っ直ぐだった。
勘ぐるのが馬鹿馬鹿しくなるくらいに。
そんな2人の雰囲気が変わったのを悟ってピオニーが確認するように聞けば、遠回しながらも了承が返された。
それからはすんなりと話は進み、自身達が試されたとも気づかず、セントビナーが見捨てられなかった事にルークがホッと息を吐いた。
と、話が終わるタイミングを見計らった様に謁見の間の扉が開かれる。
ノックも何もなかったそれに、控えていた数人の兵士達が警戒態勢を取るも、扉の向こうにいた人物を見て、それは直ぐに解かれた。
謁見の間に来る事は珍しいが、彼女がノックをしないのにはここ一年程で誰もが見慣れていた。
そんな中、一際大きな驚愕を露わにした者が1人。
「…カ、カンタビレ教官!?」
「ん?ティア・グランツか。久しいね」
目を見開いて驚くティア。
カンタビレの訃報は教団内に広く伝わっていたのだから、当然と言えば当然だ。
そんなティアにカンタビレは一瞬目を見開くも、すぐに彼女らしく豪快に笑って見せた。
執筆 20090801
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