手紙の返答
漸く様々な理由で様々に動揺していた全員が落ち着き、リスティアータと向かい合って座る。
ジェイドとカンタビレは各々の主の隣から一歩下がった所に立った。
と、ピオニーはがばりと頭を下げた。
「ほんっとーにスマン!」
大国を治める皇帝にあるまじき行動に、リスティアータはきょとりと瞬き、ジェイドは呆れた溜息を吐き、カンタビレはムスッと彼を睨む。
テーブルの中央には、紙切れ…とさえ言えない、封筒の残骸が鎮座している。
肝心の手紙本体は、ブウサギサフィールによって現在進行形で消化されている事だろう。
リスティアータからカンタビレへ渡すようにと預かっていた、彼女達にとって大切だった筈の手紙。
ちょっと(いい歳して)おちゃめな悪戯をしたばっかりに、それを駄目にしてしまったのだ。
皇帝としてはあるまじき行動でも、人間としては当然の行動だった。
暫し目を瞬かせていたリスティアータだったが、やがて柔らかく微笑み、首を振る。
「謝って頂く必要はありません。どうか頭を上げて下さい」
「だが」
「本当に、いいんです」
漸く頭を上げたピオニーに微笑み、リスティアータはカンタビレを見た。
「手紙は所詮紙切れです。伝えたい言葉は、私が直接伝えます」
それに、とリスティアータは続ける。
「私の方こそ、ピオニー陛下にお礼を言わなければ…」
視線をピオニーに戻し、次いで深く頭を下げた。
「【取引】に応じて下さって、ありがとうございました」
「…………【取引】?」
彼女の口から出た言葉に、ジェイドが訝しげに眉を寄せてピオニーを見る。
カンタビレも同様の反応を示した。
そんな話は、何一つ聞いた覚えがなかった。
2人の視線に気づいているだろうに、ピオニーは真剣な表情でリスティアータに言う。
「……俺は、あれを【取引】だとは思ってないんだが?」
「!」
パッと驚いて顔を上げ、リスティアータはきゅっと表情を堅くする。
「いいえ…あれは【取引】です。手紙にも…」
「確かに、【取引】だとは書いてあったな」
「でしたら」
「だがな」
リスティアータを遮ってカンタビレを顎で示し、
「俺がコイツを助けたのは、別に【取引】だからじゃないぜ」
そう言ってニッと笑った。悪戯めいた表情だったが、真摯な、本心だと解る表情で。
そして、彼女にしては本当に珍しく、丸々と目を開いて驚くリスティアータに満足そうに頷いてみせた。
「お!そうだそうだ。手紙の返事がまだだったな」
忘れてたと言った様子で手を打ったピオニーのあっけらかんとした態度と急な話題の転換に、未だ驚きの抜けきらないリスティアータは目をただただ瞬かせる。
と、
くしゃり、とリスティアータの頭を撫でて、
「【協力】しよう。あんたが、あんたの【願い】を叶える為に、な」
そう、応えた。
ぐらりと、リスティアータの視界が揺れる。
ピオニーの頭を撫でる手の力の所為かもしれない。
じわりと、リスティアータの視界が滲む。
隣でカンタビレが大いに慌てる気配を感じた。
ぽたりと、リスティアータの手に雫が落ちた。
その時になって、漸く自分が泣いている事に気づく。
「…ぁ…ありがとう…ござい、ます…」
「おう」
と、それまで様子を見守っていたジェイドが、頃合いと見てピオニーに言った。
「陛下、説明して頂けますか?」
「ん?あー…」
「勿体ぶってないでさっさと話しな」
ジェイドとカンタビレを見て考えるように視線を彷徨わせるピオニーに、カンタビレが苛立たしげにせっつく。
と、
「………俺とリスティアータだけの秘密だv」
四捨五入すれば40歳のオッサンが無駄にかわい子ぶって答えた。
---- ぶっづり ----
リスティアータの手前と何とかかんとか堪えていたカンタビレの理性が、無惨な音を立てて引き千切られる。
「……ジェイド・カーティス」
「何でしょう」
「……手伝いな」
「ふむ…………」
何を、とも言わないカンタビレの言葉に、ジェイドは手を顎に添えてじっくりと考えた。
「お、おい?」
今更ながらの嫌な予感に、ピオニーの顔が引きつる。
そんなピオニーを見てジェイドが下した答えは--------
「………悦んでv」
---------------だった。
その後、ルーク達との謁見時間になるまで、ピオニーは私室内で命懸けの追いかけっこをする羽目になった。
執筆 20090710
あとがき
うおー、かなーり久々に書いてますよー。
手紙の内容とか、ピオニーが手紙の内容をどう受け取ったのかとか、詳しい説明は一切しません。
面倒な訳ではなく、皆様なりの想像をして頂ければ満足なのです。
カンタビレは何となくだけどリスティアータ以外のパーティメンバーは馴染むまでフルネーム、又は役職つきで呼びそう。
六神将は、まぁ大半ミドルネームないし呼び捨てかも(笑)
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