感動の再会
ピオニーの粋な計らいにより感動の再会を果たしたリスティアータとカンタビレ。
「久しぶりね。元気そうで何よりだわ」
「はい。リスティアータ様もお元気そうで」
互いの姿を見て、笑顔で言葉を交わした…
…なんて事はなく。
「…………」
「…………」
2人はただただ立ち尽くしていた。
片や予想出来る訳もない突然の再会に驚いて。
片や変わらぬ姿で戻ってきた手紙に、その死を受け入れようとした直後の当人の勇ましい登場に。
あまりの急展開に思考が追いつかず、声も出せずにいる。
発するべき言葉が、伝えたい言葉がある筈なのに。
「…………」
「…………」
ピオニーとジェイドもまた、黙って2人の再会を見守り、部屋は遠い滝の音だけが響く…
---ふごふごふご---
---ぶぃぶぃ、ぶぅ---
…訳でもなく。
カンタビレによって回収された脱走ブウサギ達が、思い思いに元気に騒がしく遊び回って非常に騒がしい。
感動の再会も何もあったもんじゃない状況に、ジェイドが冷めた視線をピオニーに送る。
と、ブウサギ達の場違いな鳴き声に少し現実に戻ってきたらしいカンタビレもまたピオニーを見た。
と、
にんやぁぁりと、
それはもうにんやぁぁりと、
ピオニーは心底愉快だと言った笑顔をカンタビレに返す。
「……っ」
物凄く苛っとした。
即座に斬りかかるのを堪えた事をマルクト国民は褒め讃えるべきだ。
ムカつきを隠さず、ピオニーをぎろりと鋭く睨んだ時だった。
リスティアータがゆらりと揺らぎ、その手を離れた手紙が軽い音を立てて床に落ちる。
そして、
「!…リスティアータ様?」
半ば飛びつくようにカンタビレに抱きついた。
飛びつくとは言っても、身長もさほど高くなく華奢な体躯のリスティアータ。
同じ女性であれど兵士として鍛えたカンタビレが彼女を受け止めるのは容易い。
それまで黙っていた彼女の突然の行動に驚いて見下ろせば、ぎゅっと、カンタビレの背に手を回して強く抱きついている。
微かに震える肩に、もしや泣いているのかと思い、慌てて少し体を離せば、いやいやと首を振って更にすり寄られた。
そんな少しの隙間さえ開けたくないと、
少しでも近くで温もりを感じたいと、
生きている事を感じたいのだと、
そう言われたようで、カンタビレは頬が弛むのを自覚しながらも、ただ優しくリスティアータを抱き締めた。
ふと、ジェイドは何となく不愉快な視線を感じた。
リスティアータがカンタビレと場所柄を気にせず引き裂かれていた恋人同士と見紛う感動の再会を果たしている現在、そんな視線を寄越す奴、失礼、人物は1人しかいない。
物凄く振り向きたくないが、まず確実に振り向くまで視線が逸らされないだろう事を、非常に残念な経験上ジェイドは知っていた。
渋々、ズレてもいない眼鏡を押し上げつつ視線を下げる。
と、
「-------…、」
にんやぁぁりと、
それはもうにんやぁぁりと、
しゃがみ込んでネフリーを抱き締めたピオニーが、心底愉快だと言った笑顔をジェイドに向けていた。
物凄く苛っとした。
しかし、それ以上に何故そんな気持ち悪い顔を向けられなければならないのか。
眉を寄せてそれを無言で問えば、何故か更に愉快そうに笑みが深められた。
埒が明かないので問い質そうとした時だ。
視線を2人に戻していたピオニーの顔が、盛大に引きつったのは。
「あ゙」
あからさまにマズいものを見た様子に、ジェイドも彼の視線を辿る。
「…………、陛下」
「俺の所為じゃねぇだろ!」
いいえ、こんな時にブウサギを放置していた陛下の所為です。
そう言外に含まれたジェイドの冷めた視線から勢い良く顔を逸らし、ピオニーは慌てて駆け出した。
目指すは一匹のブウサギの元。
目的は、
「おい、サフィール!それは食いもんじゃねぇ!」
洟垂れサフィールに現在進行形でもしゃもしゃと食べられている、リスティアータの手紙を取り戻す事。
というか、仮に手紙が吐き出されたとしても、唾液やら涎やら鼻水でべったべたな手紙など、どう考えても再起不能だろうに。
と、ビッと破ける音にジェイドがそちらを向けば、白い切れ端(封筒の角だろう)を摘んでいるピオニーと、咀嚼した手紙を呑み込む洟垂れサフィールが。
「あ゙--------!!」宮殿中に聞こえるのではないかというピオニーの絶叫が響く。
そんな中、それに気づいていないのか気にしていないのか、リスティアータとカンタビレは未だにひしと抱き合っている。
収拾が付かない。
そんな状況に、ジェイド1人がうっそりと重い溜息を吐いたのだった。
執筆 20090620
プラウザバックでお戻り下さい。