Metempsychosis
in Tales of the Abyss

呼び出し

倒れたガイをルークが担ぎ、一行はグランコクマへと連行された。

「フリングス少将!」
「ご苦労だった。彼等は此方で引き取るが、問題ないかな?」
「はっ!」

街の入口で一行を出迎えたのは、銀髪の男性を中心とした10人程の小隊。

フリングスと呼ばれた銀髪の男性は、柔和な態度で連行していた兵達からルーク達を引き受け、兵達が一旦下がるのを待ってルークへと歩み寄る。

「ルーク殿ですね。ファブレ公爵の御子息の」
「どうして俺の事を…!」

驚き目を瞬いたルークにフリングスは言った。

「ジェイド大佐から、あなた方をテオルの森の外へ迎えに行って欲しいと頼まれました。その前に森へ入られたようですが…」
「すみません。マルクトの方が殺されていたものですから、このままでは危険だと思って…」

苦笑まじりに言われてティアが謝ると、フリングスは緩やかに首を振って否定する。

「いえ。お礼を言うのはこちらの方です。ただ騒ぎになってしまいましたので、皇帝陛下に謁見するまで皆さんは捕虜扱いとさせて頂きます」

寧ろこれ以上ない位に考慮されただろう扱いに異議がある訳もない。

何よりルークは意識の戻らないガイの方が気になっていた。

「そんなのはいいよ!それよかガイが!仲間が倒れちまって…」

「彼はカースロットにかけられています。しかも抵抗出来ない程深く冒されたようです。どこか安静に出来る場所を貸して下されば、僕が解呪します」
「お前、これを何とか出来るのか?」

どこかホッとした表情をするルークに頷きを返しながらも、イオンの表情は酷く堅い。

「というより、僕にしか解けないでしょう。これは本来導師にしか伝えられていない、ダアト式譜術の一つですから」
「わかりました。城下に宿を取らせましょう。しかし、陛下への謁見が…」
「皇帝陛下にはいずれ別の機会にお目にかかります。今はガイの方が心配です」
「わかりました。では部下を宿に残します」

フリングスの言葉に、数人の兵がガイをルークから引き受けて宿へと運ぶ。

イオンについて行くと言うアニスに続き、当然ルークも行くと言ったのだが、

「…ルーク。いずれ分かる事ですから、今お話ししておきます」

未だに堅い表情のイオンに、ルークは訝しむ。

何故止められるのか、分からなかった。

「カースロットと言うのは、決して意のままに相手を操れる術ではないんです」
「どういう事だ?」
「カースロットは、記憶を揺り起こし、理性を麻痺させる術。つまり…」

一度口を噤んだイオンは、言い難そうに視線を下げる。

「つまり…元々ガイに、貴方への強い殺意が無ければ、攻撃するような真似は出来ない。……そういう事です」
「…そ、そんな…」

サッと青褪めたルークから気まずそうに目を逸らしながら、それでもハッキリとイオンは言った。

「解呪が済むまでガイに近寄ってはいけません」

イオンとアニスが去るのを呆然と見送るしかないルークを、ティアが心配して見ている。

「よろしければ、暫し城下をご覧になっては如何ですか?街の外には出られませんが、気を落ち着けるにはその方が…」

と、衝撃の事実を突きつけられたルークの心中を察してだろう。

フリングスの気遣いにも、ルークは応えられずに立ち尽くしている。

「……そうさせて下さい」
「わかりました。それでは我々は城の前で控えていますので、声を掛けて下さい」

代わりに応えたティアに頷いて、フリングスは兵達に指示を出し、去っていった。

「……ちょっと1人にしてくれ」

ルークがそう言うなり街中へと歩き出すと、ティアとミュウが黙ってついて行く。

それを見送って、ナタリアとリスティアータも各々グランコクマの街へと入っていった。



土地勘がある訳でもなく、ただ思うままに歩いていたフィエラは、気づけば城門前に来ていた。

全方位を譜術を利用した滝に囲まれた荘厳な城を眺めながら、どこかそわそわと落ち着かない心持ちで視線を彷徨わせる。

いつもの彼女であれば、辛い事実を突きつけられたルークに声を掛けただろうに、そんな余裕がない程にフィエラは浮き足立ったような、不思議な緊張感の中にあった。

と、

「…リスティアータ様、ですか?」
「え?」

落ち着こうと視線を俯けた時、声を掛けられて顔を上げる。

「えぇと、フリングスさん…?」
「あ、はい」

きょとりとしながら名を呼ばれ、フリングスは頷いた。

「……」
「……」

何となく途切れてしまった会話の中途半端さに、互いにどうしたものかと困惑する。

「あの」
「えっと」
「あ」
「あら」
「「……」」

会話の糸口をと口を開けば重なって、再び押し黙った。

それが何とも奇妙で可笑しくて、2人して笑ってしまう。

ひとしきり笑い、フリングスが言った。

「失礼しました。リスティアータ様で間違いありませんか?」
「はい。確かに私はリスティアータと呼ばれています」
「ピオニー陛下からルーク殿達との謁見前にお会いしたいと」
「!……わかりました」

案内するフリングスに続きながら、フィエラはぎゅっと震える手を抑えていた。




執筆 20090531

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