Metempsychosis
in Tales of the Abyss

かくれんぼ大作戦

無駄な争いを避けるべく、ミュウアタックで木々を揺らしては見張りを引き付け、ミュウファイヤーを放っては魔物を脅かし、隙を縫って森を進む事を選んで数時間。

明らかに邪魔なリスティアータの椅子は、森の入口に隠してある。

しかし、

「何者だ!」
「あら」

--------見つかる。

「侵入者だ!」
「あらあら」

--------見つかる。

「誰だ!」
「まぁ」

--------見つかりまくる。

何度試みてもゆったりなリスティアータはすぐに見つかってしまい、結構な時間が経つ筈なのに、ルーク達は未だに森の中頃にいた。

「リスティアータ様…」
「何かしら」
「かくれんぼ…下手過ぎぃ!」
「そうねぇ、苦手みたいね」

遂に癇癪を起こしたアニスにもリスティアータはのんびりと返す。

ぐったりと脱力したルークが言った。

「…強引だけど、気絶させて進んだ方が早くねぇ?」
「あー、そう、だなぁ…」
「私も賛成ですわ…」

苦笑いしつつも同意したガイとナタリアに、流石のティアも反対出来ずに黙る。

寧ろ、もっと早くにそうするべきだったとさえ思った。

そこからはさくさく進み、1時間も経たないうちにテオルの森の出口付近に辿り着く。

しかし、ここに至るまでに戦ったのは見張りのマルクト兵や魔物ばかりで、襲われた兵の言った神託の盾の姿は見ていない。

きょろきょろと辺りを伺っても、それらしい気配は感じられなかった。

「もうすぐ出口だぞ。神託の盾の奴、もう街に入っちまったのか?」
「マルクトの兵が倒れていますわ!」

焦ったようにルークが言った時、ナタリアが倒れていた兵を見つけて駆け寄る。

が、ふと暗くなった視界に反射的に飛び退き、襲い掛かった黒い何かに向けて矢を放った。

「お姫様にしてはいい反応だな」

軽く感心したような声音に見てみれば、先程までナタリアがいた場所に巨大な鎌を刺し、片手で射られた矢を受け止めたラルゴの姿があった。

「お前は砂漠で会った…ラルゴ!」
「侵入者はお前だったのか!グランコクマに何の用だ!」

1人前に出る形になったナタリアを守るように構えたルークに、ラルゴは不敵に笑う。

「前ばかり気にしていてはいかんな、坊主」
「え?」

思わず後ろを振り向いた直後、ティアに強くルークは突き飛ばされて体勢を崩した。

しかし、驚くべきはそれではない。

ルークに向かい、何の躊躇いも無く剣を振り下ろした相手、それが

「ガイ!?」

他ならぬルークの親友だった事だった。

「ちょっとちょっと、どうしちゃったの!?」
「いけません!カースロットです!どこかにシンクがいるはず……!」

すぐに異常の原因を悟ったイオンの言葉にルーク達が気配を探ろうとするが、それを許すラルゴではない。

「おっと、俺を忘れるなよ」
「させませんわ!」
「ふ、ふははははははっ!やってくれるな、姫!」

しかし、ナタリアがラルゴを牽制する間にも、ルークはガイを相手に防戦一方となり、遂には剣を弾き飛ばされてしまった。

次の瞬間、

「きゃっ、また地震!」

立つ事も侭ならぬ程の地震が起こり、誰もがその場に膝をつく。

そんな中、揺らいだ気配をティアは見逃さなかった。

「ナタリア、上!」
「!」

ナタリアの矢が正確に気配に向かい、すぐ近くの木から音もなく人影が現れる。

それと同時、カースロットが途切れ、ガイが力尽きたように倒れた。

「…地震で気配を消しきれなかったか」

どこか無感情に言った人影---シンクに、ルークが剣を向ける。

「やっぱりイオンとリスティアータを狙ってるのか!それとも別の目的か!」
「大詠師モースの命令?それともやっぱ主席総長?」
「どちらでも同じ事よ。俺達は導師イオンを必要としている。それに、リスティアータ様をお前達と共に居させる訳にはいかん」

2人の詰問を一蹴したラルゴの言葉に、リスティアータの肩が揺れた。

「どういう」
「ラルゴ、喋り過ぎだよ」

意味が解らず眉を寄せるルーク達をシンクが遮り、ラルゴを睨む。

次いでルークを見て嗤った。

「アクゼリュスと一緒に消滅したと思っていたが……大した生命力だな」
「ぬけぬけと…!街一つを消滅させておいてよくもそんな…!」

ナタリアの睨みさえ軽くあしらい、シンクはルークを指差す。

「履き違えるな。消滅させたのはそこのレプリカだ」

と、

「シンク」

静かに、それまで黙っていたリスティアータが彼を呼んだ。

ただそれだけであったけれど、シンクはそれに含まれた意味を察して仮面の下の顔を顰める。

「……ふん」

ふい、とシンクが顔を背けた時、騒ぎを聞きつけたマルクト兵達の駆けつける足音が近づいてきた。

「ラルゴ、一旦退くよ」
「やむを得んな…」

去る2人を一瞬追おうとしたルークだったが、倒れたガイと駆けつけたマルクト兵達に、すぐにそれを諦めた。




執筆 20090531

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