Metempsychosis
in Tales of the Abyss

018

ダアトは珍しく連日の雨が降っていた。
分厚い雨雲に星の瞬きも隠されている夜、 フィエラは独り、部屋に佇んでいた。

キィ…と扉の開く音。
パタン…と扉の閉まる音。
それを最後に、静寂が訪れる。

フィエラは無言で椅子から立ち上がると、扉に向かって跪いた。

「…………アリエッタ」

名前を呼べば、ヨロヨロとした足取りで傍まで来たアリエッタは、まるで表情の欠けた人形のようだった。
無抵抗のアリエッタを優しく抱き締める。

「アリエッタ…」
「リスティアータ、さま…」

アリエッタはフィエラのぬくもりの中で、ポツリ、ポツリと話し出す。

「…イオン、様…、…死んじゃった……」

「…イオン…さま……笑って、た…」

「あ、あり…がと…って……っ」

「あ…アリエッタも…いっしょ…っ…ぇ……言った、のに……ダメって………っ」

「…泣かない…でって…っ、笑って…っ…て……ぇっ」

その言葉通り、アリエッタは泣いていない。
どんなに声が震えていても、
どんなに目の奥が熱くなっても、
力一杯フィエラの服を握り締めて、
泣くまいと、必死で堪えている。

イオンの、最期の願いだから。
アリエッタが泣くと、いつもイオンは自分まで泣きそうな顔で困っていたから。
だから…

「アリエッタ…泣いていいのよ…」
「っ!」

アリエッタは息を呑み、イヤだ、ダメだと首を振った。

「泣いていいのよ、アリエッタ…」
「…っ……っ」
「イオン様が大切だった分だけ、いっぱい泣いていいの。イオン様が大切だった分だけ、たくさんたくさん、悲しんであげて。ね、アリエッタ…」

あたたかいフィエラのぬくもりに、もう感じる事の無いイオンのぬくもりが重なる。

アリエッタの涙は、瞬く間に決壊した。

「っ……ィ…オン…さまぁ…っ!」

アリエッタは泣いた。
誰に憚る事なく、大きな声をあげて泣きじゃくった。
一度流れ出した涙は止まる事なく流れ続け、フィエラの肩の衣服があっという間に濡れていく。
リスティアータはアリエッタを強く抱き締め、彼女の頭を撫で続けた。


やがてアリエッタはリスティアータに抱き締められたまま、泣き疲れて眠りに落ちた。

「・・・・・」

フィエラはゆっくり目を開けると、初めて見たアリエッタの桃色の髪をまたひとつ撫でる。
そして、
夜明けを迎えた空をゆっくりと見上げ、
─────…視た。

明るくなっていく空を見上げていたフィエラがひとつ瞬きすると、一筋の涙が流れ落ちる。

────…ああ、彼は…彼等は…。

フィエラはゆっくりと目を閉じて、

─────…瞳に映る決意を隠した。

再執筆 20080724
加筆修正 20160417

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