罪の在処
青褪めたテオドーロが頷くのを確認して、フィエラはすぐに会議室を出た。
とにかく、気分が悪かった。
どこを目指すでもなくユリアシティを歩く。
集まる視線が気持ち悪い。
フィエラの冷淡な表情に、誰も近付いて来ないのは唯一の幸いだった。
人の見られない場所に来た時、フィエラは漸く足を止める。
気づけば建物から出ていたらしく、ユリアシティを覆うドーム越しに、障気に満ちた世界を臨む事になった。
「………私、は」
------…何をしているの。
理解っている。
自分に彼等を責める資格なんてない。
何故なら同じだからだ。
自分だって知っていた。
知っている。
アクゼリュスの住民全員を助ける方法も、無い訳では無かった。
それなのに、自分はそれを選ばなかった。
それでも、無視する覚悟すら、背負う覚悟すら持てず、中途半端に動いた。
理解っている。
自分のやった事はただの自己防衛。
何もしなかったと責められるのが恐くて、やっただけ。
自己満足だ。
自分は見捨てた。
アクゼリュスの人々を。
それは、紛れもない事実。
「-------…ここにいましたか」
「!、…ジェイド」
フィエラは突然声を掛けられた事よりも、ジェイドの立つ近さ(距離にして1歩程度)に驚いた。
そして思わずまじまじとジェイドを見る。
「おや、私の顔に何か付いてますか?」
「え?あ、いえ…初めて、見たものですから…」
そう。
初対面時に顔に触れ、人相自体は知っていたが、実際見るのとはやはり違うもの。
すみませんと謝りつつも見続けるリスティアータに、ジェイドは眼鏡を押し上げた。
「そういえばそうですね。盲目かと思っていましたが、違ったようですし」
「…………はい」
「理由を伺っても?」
彼が聞きたいのは眼を『閉じていた』理由か。
それとも眼を『開いた』理由か。
はたまたその両方か。
フィエラは少し考えて、『開いた』理由だろうと思った。
ジェイドならば、『閉じていた』理由に既に見当をつけているだろうから。
質問の形をとっていても、それは確かな圧力を持って向けられたにも係わらず、フィエラは気づかずそんな事を考えていた。
「………必要だったからです」
「アクゼリュスの人々を、ユリアの譜歌で救う為に?」
「…………」
ゆるゆると、弱々しく首を横に振るリスティアータに、ジェイドは目を細めた。
否定する理由が解らなかった。
彼女が譜歌でアクゼリュスの人々を助けたのは事実。
それを何故否定するのか。
しかし、ジェイドはそれ以上踏み込む事はしなかった。
今、自分が何を言ったところで、きっと頑なに否定すると感じた。
「-----…あの子を、責めましたか?」
次いで問われた内容に、ジェイドはふっと目を逸らした。
「…ええ。責めました」
「ジェイド…」
「解っていますよ」
そう。
理解っている。
「私に、ルークを責める資格など無かった」
ルークが超振動について相談するなどという選択肢は、あるようで、無かった。
ルークがレプリカであるという秘密を、自分は隠していたのだから。
そんな相手に相談など、出来る訳がないのだ。
併せて、超振動が兵器に転用出来るのだと言っていた事も思い出す。
それにより、更に相談相手は減ってしまった事だろう。
自分であったなら、間違いなく相談しない。
それでも言ってしまったのは、度重なった事態に、自分らしくもなく動揺したからか。
いや、何にしても、総てが言い訳にしかならない。
「私だけではありませんね。この世界中の誰にも、ルークを責める資格など無い」
自分の言葉が、無責任にルークを傷つけたと自覚して、ジェイドは自嘲した。
リスティアータは視線をジェイドの横顔から障気の世界に移す。
「………悪いのは、ルークだけ(、、)ではありません」
「……ええ」
ルークが悪くなかったとは言わない。
でも、ルークだけ(、、)が悪かった訳ではない。
それはハッキリとした、でも曖昧な違い。
執筆 20090504
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