Metempsychosis
in Tales of the Abyss

遵守されるべきもの

「お祖父様…今…なんて……?」

唇を震わせて、ティアが自らの祖父、ユリアシティの市長であるテオドーロに訊く。

言っている意味が、理解出来ない。

いいや、頭がそれを拒否していたのか。

「アクゼリュスの住民の保護は、お断りする」

朗々と言うテオドーロに、一瞬の迷いも、躊躇も、罪悪感も、何も感じられない。

考えるまでもなく、彼はアクゼリュスの難民を見捨てたのだ。

「理由をお聞かせ願えますか?」

ルークとミュウ、リスティアータ、クロを除く全員が揃ったユリアシティの会議室で、アクゼリュスの住民の保護を求めた。

その答えが、先程のテオドーロの言葉だ。

当然納得出来る訳もなく、ジェイドが理由を問う。

「…ふむ…仕方ないか」

暫し逡巡したテオドーロだったが、理由を話さずに済ます事は不可能と判断し、口を開いた。

「アクゼリュスの崩落は、ユリアの預言に詠まれていた。起こるべくして起きたのです」

思いもしなかった事に、大半が絶句する。

予測していたジェイドは目を細め、知っていたアッシュは嫌悪に顔をしかめた。

預言に詠まれていた?

アクゼリュスの崩落が……?

「どういう事、お祖父様!私…そんな事聞いていません!それじゃあホドと同じだわ!」
「これは秘預言。ローレライ教団の詠師職以上の者しか知らぬ預言だ」
「預言で分かってたなら、どうしてアクゼリュス消滅を世界に知らせなかったの?」
「そうですわ!それを知らせていたら、死ななくて済む人だって」
「それが問題なのです」

感情に声を震わせる2人に、あくまでもテオドーロは朗々と話す。

自分が間違えているなどと、思ってはいないのだ。

「死の預言を前にすると、人は穏やかではいられなくなる」
「そんなの、当たり前ではありませんのっ!」
「それでは困るのですよ」

困る?

何が。

人が生きて、何が困ると言うのか。

長年、幼い時から接してきた祖父を、ティアは初めて、恐ろしいと思った。

「ユリアは七つの預言でこのオールドラントの繁栄を詠んだ。その通りに歴史を動かさねば、来るべき繁栄も失われてしまう。我等はユリアの預言を元に、外殻大地を繁栄に導く監視者。ローレライ教団は、その為の道具なのです」
「……だから、モース様はイオン様を軟禁して戦争を起こそうとした……?」
「その通りです」

アニスの言葉に頷くのにも、感情というものが感じられない。

何もかもが、預言通りであればそれでいいと。

「ともかく、それが我等がアクゼリュスの住民を保護しない理由です」

まるで、それでも譲歩したのだと言わんばかりだ。

実際彼等としてはかなり譲歩したつもりなのだろう。

本来ならば、『死んでいなければならない』アクゼリュスの住民が、400人以上も『生きてしまっている』。

それはユリアの預言を大きく覆す。

今すぐにでも『死なせる』必要さえある者達を殺さないのは、自分達で手を下す覚悟がないからか、その先の未来でどうせ死ぬとでも思っているからか、それとも、彼等を生かしたのがリスティアータだと、イオンが言ったからなのか。

どれにしろ胸糞悪い。

アッシュが改めてそう思った時、シュンッと音を立てて光の扉が開かれた。

見慣れない(恐らくユリアシティの患者用のだろう)白いワンピースに身を包み、まだ本調子とは言えない筈のリスティアータが、ゆっくりと入室する。

「おお!リスティアータ様!」

大半が絶句し、誰かは明らかに戸惑い、1人が静かに目を細めた。

それに気づかずテオドーロは一人、酷く嬉しそうに席を立ち、リスティアータに歩み寄った。

「再びお会い出来た事、心より嬉しく思います」
「……再び?」
「ええ、リスティアータ様は覚えていらっしゃらないでしょうが、貴女様が降臨された際、有り難くも立ち会わせて頂きました」

瞬間、リスティアータの眼がスッと細められた事に、テオドーロだけが気付かない。

「…貴方がここの責任者ですか」
「はい。申し遅れました。私は」
「貴方の名前に興味はありません」

ピシャリとテオドーロを遮って、リスティアータは言った。

「タルタロスに食料と衣料品を、必要な分だけ運んで下さい」
「は?いや、しかし、リスティアータ様。先程彼等にも申しましたが」
「私がいつ…----------」

その時になって、テオドーロは漸く気づいた。

ナタリアが戸惑ったのは、

ティア・ガイ・アニス・イオンが、

アッシュが、絶句したのは、

ジェイドが、目を細めたのは、


リスティアータが、全くの無表情だったからだ。

いや、『無』ではない。

開かれた漆黒の瞳に満ちたその感情は


「-------…貴方の意見を尋ねましたか」

----------…憎悪




執筆 20090502

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