見覚えのない故郷
港を後にした一行は、バチカル特有の乗り物、天空客車を使って都市の中心へと移動した。
「ここが…バチカル?」
天空客車から降り立ったルークは、ぽかんとした表情で遥か上まで続く壁を見上げて声を漏らした。
その表情や様子を、ティアは前にも見たように感じた。
そう、それは……
「なんだよ。初めて見たみたいな反応して……」
初めてタタル渓谷で、海を見た時と同じ表情(かお)だった。
「仕方ねぇだろ!覚えてねぇんだ!」
「そうか…。記憶失ってから、外には出てなかったっけな」
ムキになって返したルークの言葉に、ガイはそれを忘れていた自分に気付く。
ガイが気まずそうに頬を掻いた時、一足遅く天空客車を降りたリスティアータがぽむっと手を打った。
「あら。私と一緒ね、ルーク」
「へ?」
「私も初めてなの。どんな所なのかしらねぇ」
ケセドニアの時は気候が合わずに街を見て廻れなかった為か、リスティアータは珍しくウキウキとした様子で微笑む。
「少し、街の中を見て廻ってもいいですか?」
「いいですね。僕も色々見てみたいです」
リスティアータの提案に、優しさからか、それとも純粋な好奇心からか、イオンも賛同し、ジェイドを仰ぎ見る。
「…まぁいいでしょう。見物しながら城を目指しましょう」
「まぁ、ありがとう、ジェイド」
「ありがとうございます」
片や柔らかに、片やにこやかに希望を言われては、ジェイドとて無碍にはし難いものがある。
とは言っても、反対する理由が明らかならば、ジェイドは至極あっさり笑顔を貼り付けた顔で駄目と言ったのだろうけれど。
ジェイド(保護者)の許可を得た一行が散策を始めて少しして、ルークの視界の端を、見覚えのある、寧ろ目立ち過ぎる奇抜な格好の者達が掠めた。
足を止めたルークに続き、皆がルークの視線を追えば、そこにはケセドニアで遭遇した漆黒の翼が。
彼等は1人の神託の盾兵と何か話している。
怪しい。
見るからに怪しい。
怪し過ぎる。
だってニヤリと笑ってるし。
「……なるほど。そいつはあたしらの得意分野だ」
「報酬ははずんでもらうゲスよ」
「しかしこいつは一大仕事になりますね、ノワール様」
「なんだ。またスリでもしようってのか?」
「「「「!」」」」
不意に交ざった声に、怪しい密談をしていた4人は一斉に振り返った。
そしてそこに居たイオンの姿に、神託の盾兵は大いに慌てる。
「で、では頼むぞ!失礼します、導師イオン!」
すたこらと去っていった挙動不審な兵の言葉に、ノワールと呼ばれた女の目がキラリと光った。
「へぇ〜そちらのおぼっちゃまがイオン様かい」
相も変わらず露出過多な服装と過剰な化粧、強烈な香水の匂いに、リスティアータはジェイドの後ろへと避難する。
失礼だと解っているが、無理なものは無理なのだ。
と、意味有り気なノワールの視界からイオンを護るようにアニスが立ちはだかった。
「何なんですか、おばさん!」
喧嘩を売って、
「つるぺたのおチビは黙っといで」
売り返される。
どうもこの2人はお互いの劣等感を刺激するらしい。
片や若さ、片や…ボン・キュッ・ボンな膨らみ辺りに。
「楽しみにしといで、坊やたちv行くよ!」
「へいっ!」
と、早々に不毛な争いを終わらせたノワールに続き、2人の男が去っていく。
そんな中、ノワールの視線がすれ違い様の一瞬だけリスティアータに向いたのに、ジェイドだけが気付いた。
「何なの、あいつら!サーカス団みたいなカッコして!」
ぷんぷんアニス(余程つるぺた呼ばわりが気に障ったらしい)に苦笑いつつ、ガイが以前見たというサーカス団の話をすると、ルークが「ずりぃ!」とむくれて見せる。
と、まぁそれはさておき、ジェイドは考えるように顎に手をあてた。
「…気になりますね。妙な事を企んでいそうですが」
「…ええ。それにイオン様を気にしていたみたい。どうかお気をつけて、イオン様」
「はい。分かりました」
ティアの言葉に素直にイオンが頷いたが、彼の注意がどこまで有効か…と、ジェイドは内心で思う。
当然それはイオンに限った事ではなく、
「……貴女もですよ?」
ジェイドは後ろを振り返って笑顔で釘を刺した、のだが、
「…ふぇ?」
未だに鼻を押さえていたらしいリスティアータは、何とも間抜けた(寧ろこちらの気が抜ける)返事を返す。
「…………………………………はぁ」
「あの、ジェイド?」
長い長い沈黙の後、ジェイドはやれやれと溜め息を吐いた。
首を傾げるリスティアータには、何と注意を促しても無駄な気がする。
だったら、
――――私が注意を払うしかありませんねぇ。
執筆 20090418
あとがき
無駄は嫌いそうなジェイドですから、だったら他の誰かに任せるか、自分がやった方が早いとか思いそう、かと。
今回後者を選ぶ辺りが………ねぇ(笑)
そろそろ城に行かなきゃね…。
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