Metempsychosis
in Tales of the Abyss

解析データ

用意されていた船室で、リスティアータは漸くいつもの椅子に下ろしてもらう事ができた。

同時に妙なそわそわ感からも解放され、ホッと胸を撫で下ろす。

「ここまで来れば追って来れないよな」

ルーク達も思い思いの場所に腰を下ろし、やれやれと息を吐いた。

そんな中、解析データをパラパラと捲っていたガイが、悔しそうに舌を打つ。

「くそ…。烈風のシンクに襲われた時、書類の一部を無くしたみたいだな」
「見せて下さい」

ジェイドに渡った解析データは本2冊程に及ぶ量だったが、ジェイドはスラスラと読み進めていく。

「同位体の研究のようですね。3.14159265358979323846……。これはローレライの音素振動数か」

ほぼ独り言として発された言葉にも、ルークの頭にはひたすら疑問符が飛び交った。

以下、ルークのお勉強の時間となる。

「とりあえず、ローレライって何だ?」
「ローレライは第七音素の意識集合体の総称よ」
「音素は一定以上数集まると、自我を持つらしいですよ。それを操ると、高等譜術を使えるんです」
「それぞれ名前が付いてるんだ。第一音素集合体がシャドウとか、第六音素がレムとか…」
「曜日や月にもなっているから、ルークはもう知っているわね」
「おぅ」

ティア、アニス、ガイと立て続けに言われて混乱しかけながらも、リスティアータの助け舟に「そう言えば」、と思い出す。

日常の中でも必ず聞いていた名前なだけに、あまり苦労せずに理解する事ができた。

「ローレライはまだ観測されていません。いるのではないかという仮説です」
「……よし。多分わかった」
「焦らないで、これから知れば大丈夫よ」

多分と自信なさそうに言いつつも、きちんと考えているらしいルークに、ガイは涙がちょちょぎれそうだ。

その親バカじみたガイとはまた違うのだろうが、ティアがルークを優しく励ます。

少し前なら有り得なかった光景だ。

それを見て当然思うところのある者もいる訳で……

「なんか…ティアってば突然ルーク様に優しくなったね」
「そ、そんなことないわ」

二段ベッドの上段に腰掛けて足を揺らしていたアニスが目を細めて言った。

ティアは慌ててそれを否定したものの、微かに赤らんだ頬が焦りを如実に語っている。

何とか誤魔化そうとティアが頭をフル回転させた結果、話題の転換を選択した訳だが、

「そ、そうだ!音素振動数はね、全ての物質が発しているもので、指紋みたいに同じ人はいないのよ」

ちょっと無理矢理な感は否めなかった。

「物凄い不自然な話の逸らせ方だな…」
「ガイは黙ってて!」

当然のツッコミを受けたが、ティアはそれをピシャリと跳ね返す。

ガイからすると理不尽と言えなくもない。

「同位体は音素振動数が全く同じ二つの個体の事よ。人為的に作らないと存在しないけど」
「まぁ、同位体がそこらに存在していたら、あちこちで超振動が起きていい迷惑ですよ」

軌道修正された話にジェイドが肩を竦めた。

そんな彼の言葉にルークが微かに肩を震わせたものの、本に目を落としていたジェイドは気に留めずに更に言う。

「同位体研究は兵器に転用できるので、軍部は注目していますねぇ」

意図せず齎された情報に、ルークは一瞬視線を下げた。

ヴァンがルークに連絡船で教えた事とほぼ重なる内容だったからだ。

同位体については未だ理解出来ないが、超振動と兵器、そして軍部と聞いてしまえば、それはルークがヴァンの言った事を信じる後押しとなった。

「昔研究されてたっていうフォミクリーって技術なら、同位体が作れるんですよね?」
「「「……」」」
「フォミクリーって複写機みたいなもんだろ?」
「いえ」

アニスの軽い問い掛けは、それ(、、)を知る者達に沈黙を与えたが、すぐにガイが続いた為に誰も気づく事はなかった。

と、ずれてもいない眼鏡を押し上げたジェイドが、心なしか静かな声で訂正を加える。

「フォミクリーで作られるレプリカは、所詮ただの模造品です。見た目はそっくりですが、音素振動数は変わってしまいます。同位体は出来ませんよ」
「見た目はそっくりって事は、性格は違うのか?」
「…………まぁ、そんな所です」

ルークの素朴な問い掛けに、ジェイドは再び書類に視線を移しながら、彼には珍しくも曖昧に頷いた。

そんな中、静かに聞き役に徹していたリスティアータがぽつりと呟く。

「きっと…外見を作るのはとても簡単なのね…」
「え?」
「反対に、中身を…心を作るのは、とても難しい。だって、心は動かなければ、心ではなくなってしまうもの」
「…………」

何故か寂しそうに紡がれた言葉は、鋭い棘となってジェイドに突き刺さった。



執筆 20090412




あとがき

んー。
別にジェイド批判じゃないですよ?
だってホントにそう思うんですもん。
外見を作るのはゆにしあにとってはそう難しい事とは思いません。
反対に、性格とか、心とかって難しいですよね。
だからかな。
子供を育てる親とかすげぇ大変だと思う。
その子の人生の方向を担う訳だから。

自分にはまだ無理だー(- -;)

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