Metempsychosis
in Tales of the Abyss

ただ一言に救われる

翌日、ヴァンから目を醒ましたと聞いたようで、皆が様子を見にリスティアータの元を訪れた。

口々に言われる事は皆同様で、心配した、残るだけで何故倒れているのか、リスティアータ様の単独行動禁止などと言われる。

最初は怒っていたアニスや、心配を全面に表していたイオン達だったが、それを受けたリスティアータにへにゃりと眉を下げて「心配かけて、ごめんなさいね」と謝られては、ぐっと以後の言葉に詰まってしまった。

そんな顔で謝られては、もうアニスにもお手上げ。

完敗である。

こんな彼女を更に責め立てる事が出来そうなのは、ジェイドくらいのものだ。

何てったって鬼畜眼鏡だから。



アニス達が退室してから暫く経って、一つの足音が部屋の前で止まった。

しかし、ノックされるでもなく、沈黙が流れる。

次いで、扉の前を、あっちに行ったりこっちに行ったりと、今もうろうろと歩き廻っている。

「どうぞ?」

何となく相手が想像出来てリスティアータが声を掛ければ、足音はピタッと止んだ。

また少しの沈黙の後、扉を無造作に開いた人物は、無言でリスティアータの隣に座る。

また、沈黙。しかし、今度はリスティアータも気長に待った。

「……もう、大丈夫なのかよ」
「ええ。沢山心配かけてしまったわね。ごめんなさい、ルーク」
「……本当に何ともねぇのか?」
「ええ。大丈夫よ」
「…そっか」

照れくさいのか何なのか、ぶっきらぼうに言葉を紡ぐルークに、今度はリスティアータが首を傾げる。

と、

「ちょっ、何だよ!?」

白い手で優しく両頬を包まれて、ルークは驚きの声を上げた。

とは言っても払いのけはしないのだが。

そんなルークも気にせず、ルークの顔に触れていたリスティアータがぽつりと訊く。

「……何か、恐い事でもあった?」
「!!」

いきなりの核心を突いた問い掛けに、ルークはバッとリスティアータを見た。

そこにあった優しく柔らかな微笑みに、ルークの顔はほんの少し歪んだ。

泣くのを必死に堪えるような、そんな顔だった。

静かに返事を待つ彼女に黙って一つ頷けば、まるで関を切ったようにルークの口から言葉が紡がれる。

コーラル城で浚われた事。

変な襟巻き男(ディスト)に変な譜業で何かされたかも知れない事。

それについて知っている様子のジェイドが何も説明してくれない事。

仮面の奴(シンク)がいた事。

アリエッタと戦って、生きたまま少女を拘束した事。

骸骨のような魔物と戦って、それがとても強かった事。

カイツール軍港でアルマンダイン伯爵に会う前、ジェイドに何と紹介すれば良いのか尋ねたら、「あなたにしては上出来ですね」と良く解らない褒め方をされた事。

連絡船でティアと話したら謝られた事。

甲板で、体が勝手に動いた事。

その時にヴァンに助けられた事。

そのヴァンがルークに教えた、キムラスカの思惑。

思いつくままに話された事柄は、必ずしも恐い事ばかりではなかったが(ルークにとっては恐かったのかもしれないが)、リスティアータはそれら一つ一つに相槌を打ちながら、ルークの話に耳を傾けた。

ルークとしても、彼女からの答えを期待して話していた訳ではない。

ただ聞いて欲しかった。

考えても解らない事ばかりで、でも、訊けば何でも教えて貰える訳ではなくて、答えを知りたいと思うのに、それを知るのが、恐い。

一度に色々な事が起きた為か、ルークの思考はぐちゃぐちゃに乱れていた。

そして、ヴァンが教えた内容はルークを更なる混乱へと導き、明確に指し示された方へ、安易に進ませようとしている。

それに気づきながらも、リスティアータは黙ってルークの頭を撫でた。

「……とっても頑張ったのね」

一頻り話終えた後で掛けられた言葉に、ルークは頭が真っ白になったように目を瞬かせる。

・・・・・・頑張った?

そう、だ。

・・・・・・頑張った。

きちんと理解しようと、頑張って考えた。

考える事がこんなに大変な事だとは思わなかった。

ルークに自覚はなくとも、慣れない事を続けた所為で、限界を迎えようとしていたのだ。

今にも爆発しそうな程、頭も心も限界だった。

そんな時、リスティアータから掛けられた「とっても頑張ったのね」のたった一言は、すべてを吹き飛ばすような威力があった。

自分に向けられる【母】のような微笑みに、頭を撫でる手に、総てが【報われた】ようで、

【認めて貰えた】ようで、

ルークは深く、息を吐いた。

ただそれだけなのに、喉が震える。

カッコ悪ぃと思いながらも、ふっと肩の力が抜けるのを、ルークは初めて感じていた。



執筆 20090411




あとがき

っだっはーーー!!
超難産!!
スランプってより 書こうとしている話が難し過ぎた( ̄□ ̄;)

ルークはどんなに頑張っても認められる事は無かったんだろうなぁと思って。
だって普通の人達からすれば【出来て当然】の事だから。
それって存在否定と同じですよね。
でもヴァンは(思惑はどうあれ)認めてくれていた。
だからあれだけ心酔してたんだろうと思います。

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