Metempsychosis
in Tales of the Abyss

浮上した意識

ゆらゆらと、緩やかに揺れる感覚。

ゆっくりと浮上する意識の片隅でフィエラはそれを感じていた。

そして周囲を見回すようにゆるりと首を横へと巡らせる。

双眸は閉じられているのだから、何も見えはしないのだけれど。

と、ふわふわとした何かが頬を擽って、フィエラは思わず頬を緩めた。

「クロ………」
「にぅ」

早くも自分の傍らにいるのが当然のようになった存在に、今度は自分から頬を擦り寄せる。

暫くクロの柔らかな感触を楽しむと、フィエラはゆっくりと身を起こした。

そして、ふと、思い出したように右手を動かす。

何の違和感もなく動いた。

「・・・・・・・・」

フィエラはゆっくりと記憶を辿る。

確か、そう、気を失う直前だった。

包丁で手を切った時、転んでしまった時、箪笥の角に足の小指がぶつかった時などとは比べ物にならないような、痛み……いや、衝撃を、右手に感じた筈だ。

音で言うなら、ぷつり、と。

感覚で言うなら、何かが弾けたような…破裂したような…。

それを思い起こして無意識に手を握り締めた時、カチャリと音を立てて扉が開かれた。

「お目覚めでしたか」

深く響く声音にフィエラは首を傾げる。

「…ヴァンさん?」
「はい。ご気分は如何ですか?」

微かに違和感を感じる。

しかし、それが何なのか解らぬうちに、違和感はヴァンの問いかけに流されてしまった。

「あ…はい。大丈夫です」

リスティアータの答えにヴァンはホッと息を吐く。

「あの…此処は…?」
「連絡船の船室です。リスティアータ様はもう4日も意識を失っていたのですよ」
「まぁ、4日も?」

それはまた、随分と寝たものだ。

フィエラはのんびりと思った。

リスティアータの予想通りの反応に、ヴァンは微かに苦笑する。

「経由地のケセドニアへはあと2日程かかります。その間、ゆっくりされるといいでしょう」

そう言ったヴァンの手が、さり気なくリスティアータの頬を撫でる。

武人らしい武骨な手に似合わず、実に優しく。

「まだ少し、顔色が優れないようですから」

心配そうな雰囲気を感じ取り、リスティアータは眉を下げた。

「心配をかけて、ごめんなさい」いつになく反省した様子に、ヴァンはただ微笑んで頷くと、もう少し眠るよう彼女に勧めて船室を後にした。



ただゆらゆらと揺れていた船室とは違う、まるで波を切るようにして進む音を聴きながら、フィエラは甲板にいた。

船員以外の誰もが寝静まった時間、つまりは深夜遅くのこの時間に、何故フィエラが甲板にいるのかと言えば、眠れないからだ。

ヴァンに言われて眠ったは良いものの、次に目覚めてみたら夜遅く。

再度寝れればと思ったが、流石に眠気は訪れなかった。

なので少し気分転換でもと思い立って今に至る。

誰もいないのだからと一度目を開いたが、すぐに閉じた。

夜の海は、ただただ暗い。

絶える事のない波が時々月明かりを受けて輝く以外、ただ、暗く、深く、深淵な…………闇。

それがあの(、、)澱んだ闇の海と酷似して見えて、フィエラは予想外の恐怖を感じ、動けなくなっていた。

預言で見たそれ(、、)を実際に見た事はないし、実物とは比べ物にならないのだろうとは理解出来ても。

と。

ふわりと、何かが肩に掛けられた。

それと同時に香った匂いに、フィエラはそれが誰なのかをすぐに知る。

「ありがとう、ジェイド」
「…………」

恐らく彼がいるのだろう方を向いてお礼を言ったが、ジェイドはただ無言だった。

フィエラは首を傾げて「ジェイド?」と呼んでも、返事はない。

「………」
「?」

ジェイドがその無言で何を伝えたいのか解らない。

フィエラはただ首を傾げるばかりだった。

「………あなたは」
「………?」
「…………」

漸く口を開いたかと思えば、すぐに閉ざされてしまう。

ジェイドにしては珍しく、言い淀んでいるらしい。

反応に困ったフィエラが眉を下げた。

「……私に何か言う事はありませんか?」

先程言わんとしていた事とは恐らく別の問い掛けに、フィエラは内心できょときょとと瞬いた後、にっこりと微笑んで言った。

「心配してくれてありがとう、ジェイド」



執筆 20090213




あとがき

前半はヴァン夢で後半はジェイド夢っぽくなったような、なってないような?

余談ですが、ジェイド御用達の香水ってどんな香りですかね?
あんまりイメージわかなくて誤魔化しちゃいました(笑)

更に余談。
フィエラの感じた違和感ですが、解りにっくいでしょうが頑張って理解して下さい!
え?コーラル城?
あっはっはー。

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