Metempsychosis
in Tales of the Abyss

途切れた意識

「私はここに残ります」

リスティアータの言葉に、誰もが目を見張った。



結局連絡船は全て破壊され、ヴァンの言葉もあってルーク達は再びカイツールへと戻る事にした。

そして軍港出入り口へと向かった一行の前に、数名の整備士が立ちふさがる。

まさに縋って来た彼等の願いは、『整備長を助けて欲しい。預言には大厄が除かれると詠まれていたのだから』と言うもの。

元よりアリエッタのした事に責任を感じていたイオンがそれを受けると、コーラル城に少なからず関心を持っていた面々が多かった事もあり、割とあっさりとコーラル城行きが決定した。

そうして改めて出発しようとした矢先だ。

リスティアータが冒頭の言葉を放ったのは。

「ぇえ!?駄目ですよぅ!」
「お一人で残られるなんて危険です!」
「あら、お外に出る訳ではないもの。大丈夫よ」
「それは、そう…ですが…」
「1人でってのはなぁ…」
「何で残るんだよ?」
「……私は、アリエッタの要求に含まれていないし、行っても足手纏いになってしまうもの」

はんなりと答えられてしまい、反対しているルーク達は言葉に詰まってしまった。

正論と言われれば正論だったからだ。

確かに逃げ場の多い平野なら兎も角、未知の建物内となればそれも限られてくる。

襲われた痛手があるとは言え、キムラスカの軍港であるここにいれば、六神将もそう簡単には手出し出来ないだろうが…。

「本当にいいんですか?」
「…はい」

含まれた問いを理解しながらも意志を曲げない彼女に、ジェイドは、つ…と目を細める。

「アリエッタと戦闘になった時、殺してしまうかもしれませんが」
「……」
「お、おい…ジェイド…」
「事実です」

確かに事実だろうが、あまりにハッキリとした言い方に、皆が眉を寄せた。

それはジェイドを責める意味ではなく、リスティアータと少なからず親しいのだろうアリエッタを、自分達が殺すかもしれないという、高い可能性を突きつけられたから。

「……その判断はイオン様にお任せします」

その事実を突きつけられて尚、リスティアータは揺らがなかった。

「………そうですか」

いっそ、一瞬でも揺らいでくれたなら、とジェイドは思う。

自分ならば見逃さず、そこにつけ込んで丸めこむ事も出来たのに。
そうすれば、彼女がここに残る目的を阻止出来るのに、と。

しかし、彼女が揺らがなかった以上、説得をする無意味さを既に悟ってしまっているジェイドは、ひとつ頷いてリスティアータに背を向けた。

止める術を無くした以上、ここにいても無駄な時間を過ごすばかり。

ならば───────。

「(さっさと野暮用を済ませるのが最良、でしょうしね)」

「いってらっしゃい。気をつけてね」

渋々といった様子でカイツールを後にした皆を見送って、リスティアータはすぐに軍港の奥へと向かった。

そして、すぐ横を通った1人のキムラスカ兵を呼び止める。

「お忙しい時にごめんなさい。私を怪我人の方々の元へ連れて行って下さい」
「は?あの、」
「少なからず治癒術を使えます。お手伝いをさせて頂きたいんです」
「!わ、わかりました!」

突然声を掛けられた事もあり、かなり戸惑った様子だった兵士だったが、彼女の閉じられた瞳と言葉に、二つ返事で頷いた。

幾人もの人間が生死を彷徨う中なのだ。

治癒術士が1人でも増えるに越した事はない。

兵士は足早にリスティアータを怪我人の集められた場所へと案内した。


「…壮麗たる…天使の、歌声…」

──…リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ,ズェ レィ…──

もう何度目かも分からないが、再び譜陣が浮かび上がって、消えた。

彼女を中心として苦しげな呻き声に満ちていた一帯は、打って変わって安らかな呼吸音が聴こえる。

「っ……はっ」
「凄い…」

リスティアータが詰めていた息を荒く吐くと、離れて見守っていた兵士が感嘆しきりに呟いた。

「…次は…どちらですか…?」
「あ、あちらに…あの、大丈夫ですか?少し休まれた方が…」
「大丈夫です…連れて行って下さい…」

心配そうに訊いてくる兵士に柔らかく微笑んだリスティアータだったが、彼女の額には隠しきれない大粒の汗が。

密かに次を最後に休んでもらうべきだろうと決めた兵士だったが、リスティアータが限界を迎えるのが少しだけ早かった。

集められた兵達の中心に立ち、呼吸を調える。

「──…壮麗たる…天使の、歌声…っ」

──…リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ,ズェ レィ…──

それまで通り、譜歌を歌い終えた………筈だった。

「あッ…!」

ビリッと激痛が右手を襲った。

それを確かめる間もなく、ぐらりと、脳が揺るがされるような感覚に襲われて、リスティアータは椅子に座っている事さえ出来なくなってしまう。

ゆっくりと、椅子から地面へと倒れる自分を自覚すると同時、リスティアータの意識はどっぷりと暗闇へと沈んでいく。


そんな中…──────


「随分と、無茶をなさる…」


────…深く優しく響く声を聴いた気が、した。




執筆 20090128

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