Metempsychosis
in Tales of the Abyss

予測通りの強襲

翌朝、一行はヴァンから受け取った旅券を手に国境へと向かった。

当然の事ながらマルクト側は難なく通過でき、対するキムラスカ側でもやけに大仰な対応をされながらも無事通過する。

どうやら国王から勅命が下っていたらしいが、ルーク自身は欠片も気にせず、ようやく踏み締める事のできた自国の地に息を吐いた。

「ようやくキムラスカに帰って来たのか……」
「駄目駄目。家に帰るまでが『遠足』なんだぜ」
「こんなヤバい『遠足』カンベンって感じだけどな」

少し気の抜けた感のあるルークにおどけながらガイが言ったが、うんざりと返ってきた返事には「確かに」と苦笑するしかない。

と、ジェイドが視線だけで周囲を見回しつつ呟いた。

「キムラスカへ来たのは久々ですねぇ」

自身に突き刺さるキムラスカ兵達の視線に気付きながらも飄々と言える辺り、ジェイドのジェイドたる所以だろう。

「ここから南にカイツールの軍港があるんですよね。行きましょう、ルーク様v」

アニスに腕を取られて歩き出したルークを先頭に、一行はカイツール軍港へと向かうのだった。



軍港の入口に到着した時だった。

やけに騒がしい喧騒が響いているかと思えば、そう遠くない場所から魔物の鳴き声が聞こえてきた。

「!」

リスティアータがさっと顔色を青褪めさせる。

「ああ?なんだぁ?」
「魔物の鳴き声…」

何か騒ぎが起きている事は察せたが、ルークは目を瞬かせて首を傾げた。

と、軍港の奥から、ルーク達の遥か上空を一匹の魔物が飛び去っていくのを見て、アニスが声を上げる。

「あれって…根暗ッタのペットだよ!」
「根暗ッタって…?……ひっ」

アニス命名のあだ名にガイが思わず訊く。

するとアニスは何を思ったのかガイに近づいてポカポカと彼を叩いた。
十中八九、ワザとだろう。

「アリエッタ!六神将妖獣のアリエッタ!」
「わ…分かったから触るなぁ〜!!」
「っ」
「お、おい!?」
「あ!リスティアータ様!」

2人の緊張感の欠けたやりとりをよそに、リスティアータが1人、嘗てない速さで椅子を進ませ、軍港の奥…つまりは喧騒の起きている直中に飛び出して行ってしまった。

あっという間の出来事に少し呆気に取られていたが、慌てて彼女の後を追い掛ける。

しかし、リスティアータには思いの外早く追い付く事が出来た。

彼女の姿を認めて駆け寄ろうとしたルークだったが、すぐに足を止めざるをえなくなる。

「……う……」

海に浮かぶ船の燃える煙が、その焦げた臭いが、獣の、人間の、血の臭いで満ち溢れていた。

余裕なく見渡せば、目に入るのはライガの死体、人間の……何十人ものキムラスカ兵の…死体。
勿論その中には怪我人も含まれているのだろうが、今の状況では死んでいるようにしか見えない。

と、港の末端に剣を突き出したヴァンと、彼の威圧に脅えてぬいぐるみを抱き締めるアリエッタの姿があった。

「アリエッタ!誰の許しを得てこんな事をしている!」

ヴァンの詰問に、アリエッタは一層強くぬいぐるみを抱き締める。

「やっぱり根暗ッタ!人にメイワクかけちゃ駄目なんだよ!」
「アリエッタ、根暗じゃないモン!アニスのイジワルゥ〜!!」
「お前達か」

正直現状に相応しくないアニスの声に、アリエッタが震えた声で言い返す。
常ならばそんな2人を微笑ましく見守るだろうリスティアータは、キツく…キツく手を握り締め、それを『見て』いる。

と、ルーク達に気付いたヴァンが一瞬だけ後ろを振り向いた。

「何があったの」
「アリエッタが魔物に船を襲わせていた」
「総長…ごめんなさい…。アッシュに頼まれて…」
「アッシュだと…」

彼女の出した名にヴァンが目を見張った一瞬、アリエッタは突然現れた魔物によって剣先から逃れ、攻撃の届かない上空にいた。

「船を修理出来る整備士さんはアリエッタが連れて行きます。返して欲しければ、ルークと導師イオンがコーラル城へ来い…です」

日頃拙い話し方の彼女にしては珍しくスラスラと『条件』を言う。
そう言うように、アッシュに言われたのだろう。

「2人が来ないと……あの人達……殺す……です」

が、

「アリエッタ」
「っ!」

名を呼ばれて、アリエッタはビクリと肩を、否、全身を震わせた。

「あの子に聞かなかったの?」
「…そ…れは…」
「言った筈よ。追って来てはいけないと」
「……ご…ごめんなさ…」

初めて対する怒ったリスティアータに、アリエッタはすぐに謝ろうとした。

しかし、それをリスティアータは許さなかった。

「謝罪を聞くつもりはないわ。謝る相手が違うでしょう」
「っ」

冷たいリスティアータの態度に、怒った彼女を初めて見たガイとヴァンは目を見張り、ルーク達は我が事のように一歩引く。

と、もう話は終わりとばかりにリスティアータが顔を背けたのを切欠に、アリエッタは今にも泣きそうな表情で彼女を見つめた後、飛び去っていった。




執筆 20080125

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