嬉しくない質問 嬉しい答え
一泊する事になった狭い宿屋は、7人と2匹という大所帯の一行でほぼ貸切の状態となった。
「…誤解は解けたのかよ」
「信用できないわ」
ヴァンが去って少しして、気になっていたのだろう、ルークが聞けば、ティアは振り向きもせずに答えた。
ヴァンに対する疑心は解消されてはいないようだ。
ただの頑固ともとれるティアの態度に、もとより気の長くないルークは顔を顰めた。
「……何でだよ。兄妹なんだろ」
「……あなたには…関係ない事だわ……」
「…そうかよ!じゃぁ知らねえよ!」
ふんっと勢いよく顔を背けたルークが、ティアの手が強く握り締められていることに気づく訳もない。
漸くギスギスした二人の関係も変わるかと、微かにでも期待していたガイは、やれやれと肩を落とした。
ギスギスした二人をミュウの真似をするという離れ業で落ち着かせたガイがいたりしながらも、そろそろ寝ようかと誰となく準備を始めた時だった。
既に就寝の準備を終えて今日の日記を書いていたルークは、ふと、ペンを止めた。
今日知った言葉、『第七譜石』について書いている途中だった。
(そう言えば…)
そう思ってページを捲り、数日前の日記を読む。
そして視線はタルタロスで聞いたある言葉を見つけ出した。
…リスティアータ…『預言を宿す者』…
アニスはリスティアータがそう呼ばれているのだと言っていた。
ルークは考える。
『預言を宿す』という事は、ティアが探している(かもしれない)『第七譜石』も宿しているという事ではないか。
安直な思考の経緯ながらもそう予想をしたルークは、特に深い意味もなく、ひとつの疑問を解消する為だけに、皆がいる宿屋の一室で、隣のベッドに腰掛けているリスティアータへと尋ねた。
「なぁ、リスティアータ」
「何かしら?」
にっこりと微笑んで首を傾げた彼女の顔は、次の瞬間、目に見えて…─────
「リスティアータは第七譜石も宿してるのか?」
─────…強張った。
しかし、ルークの突飛とも言える問い掛けに、息を呑んだのはリスティアータだけではない。
イオンもまた目に見えて顔を強張らせていた。
ガイやアニス、そしてティアは、最初こそ驚きも露わにルークを見たが、言われて今更ながらに気づいたその『高確率な可能性』に、リスティアータへと興味の視線を送る。
その中で只1人、ジェイドだけが静かに眼鏡を押し上げた。
彼の事だから、『預言を宿す者』という存在を知った時には既に、その予測はしていたのかもしれない。
そして、聞いた当人であるルークはと言えば、豹変とも言える皆の変化に物凄く狼狽えた。
─…俺、そんなにマズい事を訊いたのだろうか?
─…だって『預言を宿す者』って言うならそうなんじゃねぇの?
口に出さないまでも、そう表情で多分に語っているルークの様子を察し、リスティアータが大丈夫だと微笑んだ。
しかし、その表情は未だに堅い。
と、
「ルークは……」
「?」
何かを言おうとした筈のリスティアータが途中で言葉を途切らせた。
不思議に思い彼女を見れば、どこか怯えたような、そんな表情をしている。
だが、ルーク達は彼女に対して、何故か『彼女は何にも怯えなさそう』という、勝手な、しかしかなり根強い印象を持っていた。
だからだろうか。
殆ど全員が、その表情を『困った顔』だと思ったのは。
時間にして数秒--実際には数分にも感じれる--沈黙の後、
「──…ルークは、それを知ってどうするの?」
そう、尋ねた。
質問に質問で返すのは失礼だと理解はしていたリスティアータだったが、これだけは、どうしても確認しなくては…──。
「あ?どうするって…」
「……………」
まさか質問されるとは思っていなかったルークだったが、リスティアータの真剣な様子に圧されるように、ゆっくりと、しかし確実に考えた。
「………別に、どうもしねぇかな」
「どうもしない?」
ルークの出した答えに、驚いたのはダアトの3人だった。
「俺、元々預言ってあんま興味ねぇし」
「ちょっと、ルーク…あなたね…」
「それに、俺の人生は俺のもんだ。預言に指図されて生きるなんて超ウゼェ」「「「!!」」」
いよいよでもってティアとアニスは驚愕といった表情で絶句する。
しかし、言い方こそ粗暴な言葉ではあっても、それを聞いたリスティアータは、
「………そう」
とても…
とても嬉しそうに微笑んだ。
会ってから見た彼女の数多ある微笑みの中で、間違いなく一番の、とても嬉しそうな微笑みを…─────。
執筆 20090110
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