※微量ですが、卑猥な表現が含まれていす。※
夜も更けて月も高く登った頃。明かりの漏れる一室のドアをノックして、マノンは返事も待たずにその部屋へと足を踏み入れた。デスクに置かれた燭台が揺らめき、そこに向かってペンを走らせていたバンジークスが、顔だけをマノンに振り向かせている。
「お仕事、終わりそう?」
バンジークスの横顔からは疲労が伺えて、マノンは手短に済ませることだけを念頭に置き、返事を待ちながら言葉を選んだ。
「まだもう少しかかる。先に寝ていろ」
言いながら視線を机上に戻し、忙しなくペンを走らせる音がふたりの会話を遮った。今日もか、とマノンは思う。常日頃から多忙であることは重々承知で、自分の存在が負担になるようなことはしたくないが、寂しさを感じているのもまた事実だ。
「……ベッドの中で起きてるね」
せめて就寝だけでも一緒に、と考えたマノン。バンジークスの背後に歩み寄って、その手元の書類を覗き込む。難しい専門用語だらけで、意味は理解出来なかった。
「……無理はするな」
「うん」
バンジークスの肩に触れ、名残惜しげに指を滑らせて、その肩から離れる。しかしそこで、マノンはあることを思いつく。少しだけなら怒られないだろう、そう思ったマノンは触れていた肩…正しくはそのすぐ横の首に向かって顔を近付けた。
「……!」
突然首元に押し付けられた柔らかな感触を受けて、バンジークスが体を強張らせる。マノンはその微かな動きを見て面白がり、熱い吐息を吹きかけ、更にはその首筋を指先でなぞってバンジークスの反応を盗み見た。
「……じゃあ、おやすみなさい」
「待て」
首元から離れて、何事もなかったかのように部屋から立ち去ろうとするマノン。バンジークスは立ち上がってその腕を掴み、自身のすぐ傍まで引き寄せる。驚いた表情のマノンは目を瞬かせる。
「どういうつもりだ」
立ち上がって見下ろしてくるバンジークスに凄まれて、マノンがわずかに狼狽えた。まずい、これはかなり怒っている。言い訳をしたりせずにここは素直に謝ろうと顔を見上げ、キャンドルの明かりで揺らいで見えるバンジークスの瞳をおずおずと見つめた。
「……ごめん。寂しかったから…ちょっとだけイタズラを…っ…!」
言い終わる前に、マノンの耳元に控えめな体温が押し付けられる。それを認識した直後、わざとらしく水分の帯びた音を立てて耳朶を吸われて、思わず「ひっ」と息を呑む音が漏れた。
「反則……!」
身を捩って逃げ出そうとするマノンを強く抱きしめて、バンジークスは耳元から唇を離さずそのままの体勢で口を開く。
「先に仕掛けたのは、どちらだったか」
「う…!」
それを聞いて大人しくなるマノン。バンジークスの愛撫は次第にエスカレートしていく。脳みそがとろけるような感覚に襲われ、バンジークスに寄りかかる形でなんとか立っているマノンが肩をすくめた。
「待って……っ、お願い……」
このままだといつ姿勢を崩してもおかしくない。生まれたての子鹿のように脚を震わせたマノンがバンジークスの腕にしがみつき、ふるふると首を横に振って訴えた。
「マノン」
バンジークスの低い声が背筋を逆立たせる。荒くなった息をなんとか整えようと呼吸に意識を集中させながら、バンジークスの声に耳を傾けた。
「……寂しいのが、お前だけだと思うな」
「……え」
唇を奪われ、抱きしめられたまま体をまさぐられるマノン。互いの吐息が少しずつ熱くなっていく。バンジークスはマノンの表情を見てふっと笑うと、抱いたまま衣服のホックに手をかけた。
互いの弱み
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