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「じゃーありがとな。またヨロシク」

朝日が差し込む休日の早朝。手をひらひらさせながら、男は振り返ることなく帰っていく。
"また"はないけどな。心の中で呟きながら俺は男の背中を見送った。バーで引っかけた男を連れ込んで一晩楽しむつもりだったが、大したテクニックもない見かけだけの野郎だった。
すっきりした顔で帰りやがって。おかげでこっちはせっかくの休日だというのに気乗りしない一日になりそうだ。

「……はー、腰いて……」

玄関を閉めようと手をかけたその時だった。
背後に人がいたことも気付かず、突然「おはようございます」と声をかけられてビクッと心臓が跳ねた。

「あ、あー、どうも…」

なんだ、お隣さんかよ…。
このアパートに越してきた時に一度挨拶を交わしたことがあるだけで、顔を合わせるのは久しぶりだった。
軽く頭を下げて中へ入ろうとすると、隣人の青年が悪びれる様子もなく尋ねてきた。

「ねえ、キミんちってヤリ部屋かなんか?」
「ヤ……ッ!?」

ド直球すぎてむせそうになる俺に青年は爽やかな笑顔を浮かべる。

「気付いてなかった? 壁薄いから毎晩聞こえてくるんだよね、あーんな音やこーんな音が」
「……あー、その、すいませんでした。以後気を付けますんで」

顔を合わせることもない隣人のことなんて気にしたこともなかった。つーか、今までずっと黙って聞いてたってことかよ…。
自分の不注意とはいえ隣人にあれやこれやと知られていたと思うと寒気がしてくる。次の更新で引っ越そう…。

「ほんと、ご迷惑おかけしました」
「あ、ねえ、待ってよ」

後ろから青年に腕を引っ張られ、引き留められる。

「なっ、なんすか…まだ何か?」
「キミ、もしかしてゲイなの? しかも相当な淫乱ネコちゃんだよね……関光汰せきこうたくん?」
「は…、何で俺の名前……っ」
「なんでって、引っ越してきた時にキミがそう名乗ったから」

あっけらかんと答える青年に顔が引き攣った。
こっちはこいつの名前どころか今の今まで存在すら忘れていたというのに。涼しい顔して気持ち悪い野郎だ、と胸の内で毒づく。

「光汰くん、見かけは男前なのに可愛い声で鳴くよね。でも、相手の男は毎回違う声だから一夜限りのお遊びってところかな? そうそう、昨夜は満足できなかったでしょ」
「な……っ」
「声でわかるよ。だってキミ、気持ち良い時はすごくエッチな声で喘ぐもん」

こいつ、どこまで聞いてやがんだよ…!
ぞっとして後ずさる俺に迫るように、青年がぐいぐいと玄関に踏み込んでくる。

「おい、ッ」
「ねえ、続き…してあげるよ。まだ中途半端なままなんでしょ? ここ」
「や…め…っ、うぁ…ッ!」

ぎゅっと股間を握られて咄嗟に変な声が洩れてしまう。
玄関に押し込まれ、ドアが閉まる。完全に不法侵入だ。まさか、こんなすぐ隣に変態野郎が住んでいたなんて知りたくもなかった。

「キミは前と後ろ、どっちを責められるのが好きなの?」
「……っ」

背後から抱きしめられる形で股間を上下に擦られ、金玉を絶妙な力加減で揉み回してくる。

「答えてくれないの? じゃあ、弄られるのと舐められるのはどっちが好き?」
「や、めろって…! この…、変態…野郎が…ッ」

抵抗しようにも、股間を握られていては下手な動きができない。青年がズボンに手をかけると、パンツごと一気にずり下ろした。

「いつもは声だけだったけど……やっと触れた。思っていたより逞しいんだね、キミの身体」

青年は興奮気味に吐息を熱くさせる。
ペニスを握ったまま指先で亀頭をくりくりと擦られ、びくびくと腰が震えた。もう片方の手が肌を撫でながらアナルへと忍び寄る。

「う、…ぁ…はッぁ、そこ、は…や、…ああぁッ!」

指がつぷっと捻じ込まれる。抜き挿しされると、太腿にどろっと液体が垂れ落ちる感触が走った。

「ああ…まだシャワー浴びてなかったんだ。さっき帰っていった男の精子がキミの中から溢れてきたよ」
「見、る…なっ……ん、アッ…! はぁッ」

一人だけ脱がされて、チ〇コ握られて、アナルに指突っ込まれて。こんな状況最悪だというのに、半端な性欲を持て余していた身体は否応なしに反応してしまう。
青年はアナルに溜まった精子を掻き出すようにぐちゅぐちゅと指を動かした。

「お、おい…ッ、き…た、ねえ…、って……ッ」
「汚くないよ。俺も光汰くんの中に出したいくらい」
「ふざっ…けんな……ッく、あ…っは、あぁッ!」

アナルの刺激と同時に竿を上下に擦られ激しい快感に襲われる。
無駄に上手い指使いが、必死で押し殺していた声を解放させた。

「んッ、あッ…ぁ! や、め…ッ、頼む、から…っ、はな、せ…はぁっ、ああッ、ん…!」
「どうしたの? もしかしてイキそう?」
「うぁ、あっはッ、あ…ぁッ、くそ…っ、出ち、まう…ああ゛っ、ぁ…はッ…うう!」
「いいよ…出して。光汰くんのイク声、生で聞きたい…」

手慣れたように前立腺を押し上げられ、下半身に熱い痺れが駆け抜けた。

「あああぁッ、イッちゃ…ぁッあ゛ッ、はぁっ、いや、だ…っ、出…るッ、は…あ゛ぁ、ぁ…ッんあぁッ―――!」

力が抜け、目の前が真っ白になる。
勢いよく吐き出された精液は青年の手によって受け止められ、残った一滴まで丁寧に搾り取られた。

「はぁっ…、はぁっ…、はぁ…」
「たくさん出たね…気持ちよかった? ねえ、今夜は俺の部屋においでよ。歓迎するよ」
「ッ、…誰が行くかよ」

完全に腰抜けにされた俺はその場でしゃがみ込む。青年は覗くように屈んで爽やかに笑った。

「でも、毎晩男引っかけてくるのは面倒じゃない? 俺ならその手間が省けるよ。お隣だからね」

それもそうかもしれない…と一瞬ほだされそうになる自分を慌てて否定する。

「今よりもっと気持ち良くさせてあげるよ。楽しみに待ってるね、光汰くん」
「っ…、だから行かねえよ…!」

二度と顔を合わせるもんか。そう強く言い放ったが、何かを確信したように青年は笑った。

  

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