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「おはよー、莉子ちゃん。そろそろ俺のこと好きになってくれた?」

今日も彼は同じ時間にやってきて、私の耳元で囁いた。いつもの声で、いつもの台詞を。まるで息を吐くみたいに。
私は今、この男に誘拐され、監禁されている。知らない青年。会ったことも見たこともない男だった。
頭上で縛られた腕がベッドの柵に固定されているせいで上手く身動きが取れない。

「ふ、ぅぐ……っ」

ボール型の口枷を嵌められ言葉を発することもできない私に男はクスクスと笑いを洩らした。

「あーあー、嬉しそうに涎垂らしちゃって。昨夜のことちょっとは反省してくれたかな。もう俺の舌を噛もうなんて思わないでね?」
「んッ…! ふぐっ、んん…うッ…!」
「うーん、しょうがないなぁ。ちょっとだけ外してあげる。でも叫んだりしたらいけないよ。……そんなことすればどうなるか、わかってると思うけど」

男が口枷を外し、ようやく息苦しさから解放される。

「はぁっ、はぁっ…、最っ低…!」
「ああ、莉子ちゃん。手首のここ、擦り剥けちゃってる。ちょっと締め付けすぎたね。痛む?」
「っ……触らないで!」

足をバタつかせて抵抗しきつく睨みつけると、彼は微かに寂しげな顔で肩を竦めた。

「まだ暴れるんだ。悲しいなぁ」

彼の声色に苛立ちの感情が混じる。落ち着いたその口調から感じ取れる怒りに冷や汗が滲む。
監視カメラがあちこちに仕掛けられ、外部との接触も完全に遮断されたマンションの一室に閉じ込められておよそ一週間。食事を持って一日に何度か現れる彼の機嫌を損ねれば、こうして手枷を嵌められて僅かな自由すら奪われる"お仕置き"が待っている。

「こんなに優しくしてあげてるのに、どうして俺のこと好きになってくれないの?」
「誰があんたなんか……っ」
「えー、俺、すごく大切にするよ? 死ぬまで一生愛してあげる。莉子ちゃんのこと、大事に大事に可愛がってあげるのに」

ねだるような甘い声で甘い言葉を囁く。
ここに連れて来られてからもう何度も聞いたこの台詞。どこの誰かも知らない相手を簡単に好きになれるものなら、とっくにそうしてこの状況から逃げ出している。

「今だって本当はこんな風に手荒なことはしたくないんだよ。でも莉子ちゃんが俺から逃げようとするから」
「っ、誰にも言わないから……お願いだからもう帰して……!」
「やっと捕まえたのに、ここで逃がすと思う?」

あからさまに溜め息を吐き、表情に再び苛立ちを覗かせた。

「ずっと莉子ちゃんのことだけを見てたよ……だから莉子ちゃんも、早く俺のこと好きになって」

男が近づき、私の前に跪いて太腿に唇を寄せ肌の上に舌を這わせる。

「ひっ…やッ、だ……!」
「そんな顔しないでよ。気持ち良いことしかしないから。心配しなくても莉子ちゃんの処女は大事に取っておくよ、俺のこと好きになってくれる日までね。あー、何で処女だってこと知ってるかって? 莉子ちゃんのことは何でも知ってるよ。初めて彼氏ができた時はちょっと焦ったけど、セックスする前に別れてくれて安心したなぁ。あの彼氏はやめて正解だったよね。ちょっとカマかけてみたら案の定浮気してたんだよ。全然莉子ちゃんに相応しい男じゃない」

突然饒舌に、一方的に語る男に息を呑み身震いした。
どうしてそんなことまで知られているのか。まさか私のいないところで接近していたということなのか。いつから、どこから―――。考えただけでゾッとする。

「ちょっと喋りすぎちゃったね。莉子ちゃん、怖がらないで。あっそうだ。この部屋で何もすることなくて退屈でしょ? 今日はいいもの持ってきてあげたよ」

男が手提げから箱を取り出し、開封する。男が手にした小さなリモコンの先にピンク色のローターがぶら下がっている。何をされるのか一瞬で想像がついて足をきつく閉じる。

「莉子ちゃんこれが何か知ってるんだ? エッチだなぁ。まーでも、使ったことあるもんね? 自分で」
「……っ」

さっと血の気が失せていく。私の行動も、部屋の中も。本当に何もかもこの男に見られていたんだ。絶望する私に気にも留めない様子で男はローターのスイッチを回した。電源が入ることを確かめてから私の膝に手を置く。

「大人しく股を開くのと無理矢理にでも縛り付けておくの、どっちがいい?」

どちらを選んでも私はこの男を満足させるための存在でしかない。悔しくて堪らなかったけれど、これ以上の屈辱に耐えかねて私は大人しく脚を広げる。

「いい子だね」

抵抗せずに従う私を見て彼は嬉しそうに微笑む。

「待っ、て……」

ローターを近付けてくる男に震える声を振り絞る。

「……れ……」
「……うん? どうかした?」
「……トイレ……っ、行かせて……」

視線を逸らして消え入りそうな声で呟く。いつもならトイレまでの動線は自由に行き来できるのに、昨晩から拘束されていたせいで今朝は行けなかった。今迂闊に刺激されたら……。

「ああ、そっか。ごめんね気付いてあげられなくて」

男の一言にほっと胸を撫でおろしたのも束の間、腕の拘束を外そうとしないその動きにますます血の気が引いていく。青ざめる私に男はにっこり笑みを向ける。

「心配しないで」
「……っ!? トイレは……っ」
「大丈夫。汚しても怒ったりしないから」
「おっ…お願いだから行かせてよ……! ねぇ、ちょっと……っ、んぐぶッ……!?」

悲痛な叫び声を封じるかのように再び口枷を嵌められてしまう。

「んーッ! ふぐっ…んんっんぐぅっ…! んん゛ーッ!」

全身で抵抗しながら睨みつけると、男は肩を竦める。

「本当はこんな風に意地悪したいわけじゃないってわかってくれるよね? 早く愛してあげたいよ……莉子ちゃんのこと」
「んぶッ…んぐっう゛っ…ふぅーッ…んん゛ー…!」
「手が滑っちゃうといけないから、じっとしててね」

もう一度にっこり微笑んで、恥部を覆う下着の隙間からローターをゆっくりと忍ばせていく。クリトリスに当たるところで制止させると無遠慮にスイッチを入れた。ローターが激しく唸り音を響かせる。

「ふぐっ、ふッう゛っうう゛……!」
「すごいな。莉子ちゃんのおま〇こ、一瞬で染みが広がったよ。そんなに待ち遠しかったんだね?」
「ん゛ッ…ぶ! んっう、ふ、うう゛……! ふーッ、んぅぐっうぅう゛ッ…!」
「もう膀胱がパンパンだ。あんまり我慢すると病気になっちゃうよ? 少し出しやすくしてあげようか?」

男が下腹部をぐにぐにと指先で揉みほぐすように圧迫する。ツンと尖ったもので刺されたような鋭い刺激が尿の溜まった膀胱を襲う。

「ふっ…! うぅ゛んぐっ…う゛ッうぶっ…んぐぅう…っ!!」
「また後で食事を持ってくるから、それまでいい子で待ってて」
「ん゛ッ…!? ふぐッうぶっ、うぐううぅぅ……っ!」

呼び止める声に応えることなく男は背を向けてその場を立ち去っていく。

「ン…ッ、ふ…ぐうぅッ…んっ、うぐっ、んぶうううう゛……〜〜〜ッ―――!」

バタン、と扉が閉まる音と同時に必死で耐えてきた尿意はついに限界に達した。尿道からあっけなく熱い液体が噴き出し、下着をビタビタに濡らしていく。

「ふっ、ふぇッぇぐっ…うっううぅ゛っ……」

床には大量の水溜まりが出来上がり、特有のアンモニア臭が鼻をつく。堪らず涙と嗚咽がこぼれた。
こんな惨めな姿にさえ男は悦び愉しんでいるのだろう。底知れぬ恐怖と絶望に飲み込まれてしまいそうだった。

  

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