▼ 8匹目
「だから、その汚い顔をボクに見せないでって言ってるでしょ」
「ご、ごめん・・・なさい・・・」
っ・・・!何よ何なの!!この有莉の顔が汚いなんてありえないっつーの!!頭おかしいんじゃないの!?
言いたい言葉を飲み込んで引き下がる。あぁっ、ムカツク・・・!有莉の騎士に殴られても、引き立て役のブス共に何を言われての無表情な顔には苛立ちしか湧いてこない。
そんなウザイ女に見立てた木片は粉々に砕け散って周囲に散らばっていた。一週間後の闇リング戦のために学校を休んでまで修行をしているというのにあの女の顔がちっとも離れやしない。本当ならあの女をズタズタに引き裂いてやりたい処だけど、今回はツナ君にリング戦で勝利して認められてもらう事の方が大切。ファーストレディへの第一歩ってところね。今まで笹川京子や黒川花、そしてあのウザイ転校生が有莉とツナ君の恋路を邪魔してきたけど、これが追わればツナ君は有莉以外見なくなる。そうなれば後はもうすべて有莉の思い通り!そしたらあの三人を殺すことも、世界中を有莉の手駒にできる!!いくらあの転校生だって私がマフィアだって知ったらその顔を歪める筈だわ。
右手の鎌をぐっと握り締め、あいつの顔を思い浮かべる。ただの皿のように何も映さない金色の瞳。何にも興味がないような無表情な顔。人を小馬鹿にしたような声音と態度。転校してきてたった数日で視界に入れることどころか同じ空間に居ることすら許せなくなるまでに成り上がったムカツク奴。
ギリ、と奥歯を噛み締め、一思いに鎌を横に振るう。
「ぜっ、たい消す・・・!」
細切れになった草花が、ばらばらと地面に落ちた。
「お久しぶりです、シャローナ」
「久しぶり、骸。またお茶に誘ってもらえたようで嬉しいよ」
今頃あの豚さんは修業でもしてるんだろうなぁ、なんて思いながら授業をサボって屋上で昼寝をしていると、ややあって骸の精神世界へと呼び出された。草原の中、白い猫足の椅子に腰かけて優雅に紅茶を口にしているあたり、骸も少々暇を持て余しているようだった。まぁ、復讐者のところに居れば誰でも暇になるか。
骸からカップを受け取り、向い側の椅子へ座る。
「クロームが会いたがっていましたよ」
「会いに行きたいのは山々なんだけど、ちょっと今立て込んでるんだよね」
「姫崎有莉、ですか」
「知ってるの?」
「少々、ね」
姫崎もなんだかんだ言ってマフィアだし、骸がどこかで会った奴の中に含まれているのかもしれない。
カップを鼻に近づけ匂いを嗅ぐ。蘭の花の香りのこれは、テーブルのスコーンから察するにプリンス・オブ・ウェールズだろう。
「沢田綱吉も、面倒な方に目をつけられたようですね」
「ほんとだよ、全く。
]世にもなって女一人殺せないなんて、どうかしてるとしか思えないね」
例えその身が近くにあろうともあんな女、とっとと殺してしまえばいいんだ。雲雀も、リボーンなんかに言うからボクがこっちに来る羽目になったんだ。誰にも言わずにあのトンファーで頭でも殴ってやればよかったのさ。そしたらボクが、ザンザスやベル達の元から離れて大嫌いな]世のところになんて来なくてもよかったんだ。
あぁ、思い出したら腹が立ってきた。
紅茶お一気に呷り立ち上がる。
このままでは骸に迷惑がかかる。早々に起きなければ。
「ごめんね、骸。また会えることを楽しみにしているよ」
「えぇ、また。
私はいつでもシャローナの味方です。覚えていてくださいね。
Arrinederci」
――――
――
―
屋上のペントハウスの上で起き上がり空を仰ぐ。
僅かに視界に入った校庭で、クズ共がはしゃぎ回っていて苛つく。少し落ち着こうとして愛用の針を数本構える。
黒い針は上空を飛んでいた鳥の眼球に刺さり、頭蓋を割った。
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