黒猫のいる世界 | ナノ


▼ 6匹目

カチリ
また1つ鳴った時計に目をやれば予定された時刻をとうに過ぎていた。ちっ、と盛大に舌打ちをすれば、隣に座るジジイと目があってそれにまた舌打ちをしてグラスを傾けた。本当ならこの商談に俺たちヴァリアーは必要ねぇが、どうやら相手方が俺に俺たちに用があるらしく、しかもその娘がシャローナのあのターゲットらしいので、留守をレヴィとカマに任せて残りの幹部で本部までわざわざ足を運んだわけだが・・・

「つーか、来なくね?」

部屋の一角でナイフ投げをしていたベルが言うように、相手方は一向に姿を現さない。本当なら予定時刻の10分前にここに姿を現さない時点で帰るのだが、相手が相手で好奇心が勝る。それはカス共も同じようで、壁に背を預けているカス鮫も、ナイフを壁に向かって投げているベルも、金を数えているマーモンも、帰りたいとは言わなかった。

コンコンッ

ふいに扉がノックされる。どうやらようやく相手方のお出ましらしい。ここからの返事も待たずにずかずかと部屋に入ってきたのは中年のオヤジとあの写真のブス。親が親なら子は子、といったところか。
挨拶をするどころか許可なく目の前偉そうに足を組んで座ったカスは、娘の用意が遅かっただのとふざけた遅刻の理由をしながら今回使うのであろう資料を机の上に広げた。ちら、と隣に座るカスに目をやれば。厚化粧に臭い香水、身分不相応なドレスを身に纏って笑んでいた。その笑みは明らかに俺たちに取り入らんとする気色の悪い笑みだった。

「では、さっそくお願いしたいのですが・・・」

相手方のその台詞を聞いた時、俺は既に立ち上がり、出口へと歩を進めていた。後ろから溜息とともにカス鮫が、口元に嫌な笑みを浮かべているベルが、文句を言いながら金を数えるマーモンがついてくる。初対面の俺たちへの挨拶も、遅刻の謝罪もなしに始まる商談がどこにあるっつーんだ。その辺のカスの方がよっぽど商談らしいことが出来る。

ドアノブに手をかけた時、

「悪いが、今回の話は無かったことに」
「え、どうしてですかぁ?」

耳障りなカスの声に思わず足を止めた。媚びるような間延びした声に繭を顰めたのは俺だけではなく、カス共も眉間に皺を刻んでいた。背筋を駆けあがる何かに気づかないふりをして廊下に出ようとすれば、それをジジイが止めた。

「これを、あの子に渡しておいてくれるかな?」

ジジイに渡されたのは一つの封筒。それは、あの忌々しいリング戦の前に見たものと同じもの。あの子、と言うのはおそらくシャローナで間違いないだろう。だが、何故これをあいつが?確かに、闇リング戦は始まってもいなければ開催予定日すら決まっていなかったのだ。
それを今やろうとでも言うのか?あいつは。

「フンッ・・・とっといくぞカス共」

封筒をカス鮫に投げつけ今度こそ歩みを進める。誰もいない廊下に俺たちの靴音だけが不規則に響いている。
と、背後からヒール出かけてくる音と、甘い香水のにおいが漂ってきた。顔を歪めて思わず振り返ればあの厚化粧が俺たちを追いかけてきているようだった。父親に止めて来いとでも言われたか。

「ま、待って・・・!きゃっ」

わざとらしく躓いて、やはりわざとらしくこちらに体を傾ける厚化粧。傾いた体は最後尾にいたベルに抱き着く形で止まった。一瞬の空白の後に、ベルがカスを床に叩きつけた。



「マジキモ。王子に触んな」



無表情に告げたベル。背中を打ちつけた痛みに悶えていたカスの目には恐怖の色が見て取れた。

「うちのオヒメサマはこんなブスの為にジャッポーネに居るわけ?」
「彼女のためと言うより]世のためじゃないかな」

足元のそれを見向きもいない交わされるベルとマーモンの会話。最後にベルがカスの顔の横にナイフを一本投げつけたのを見て出口へ向かう。もうカスは追っては来ないようだった。
本部を出て、車に乗ってすぐカス鮫の無線がつながる。二言三言応答した後、何やら深刻な顔でこちらに向き直った。

「ルッスーリアが映像処理班から一本のテープを貰ったらしいんだが・・・」


続いた言葉に全員が目を見開いた。





怪我だけはするなと日頃口うるさく言っていたのを忘れたか、あのカスは・・・!




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