黒猫のいる世界 | ナノ


▼ 5匹目

ひそひそと話し声が聞こえる。曰く「有莉ちゃん苛めるとか最低」「調子に乗ってる」「放課後も殴ったらしい」「最悪」「キモイ」とかあることない事をよくもまーぺらぺらと。一日でこんだけ噂が広がっているとなると彼らは学生と言う身分でありながら相当な暇人らしい。

そして悪臭を放つ下駄箱。]世の言うとおりゴミでも詰め込まれているらしい。ボスがこれを見たらぶはっ、と吹き出すんじゃないだろうか。あーあ、なんて無駄な出費なんだと思いつつも昨日のうちに部下に買いに行かせた上靴を鞄から取り出して履く。周囲からは盛大な舌打ち。ローファーを鞄に収め教室へ向かう。
その間にも、足を引っ掻けてくるとか物を投げてくるとか肩にぶつかってくるとか今どきの子供だってお兄ちゃんたち馬鹿だなーあははとか言いそうな幼稚な行為を繰り返されること20数回。漸くついた教室は随分と五月蝿かった。だがそれもボクが教室の扉を開ければ水を打ったように静まり返る。突き刺さる視線をすべて無視して席に着く。そして机全面に書き込まれた呪詛の言葉。]世の言っていた通りのようだ。と言うことは笹川・黒川の時から何も変わっていないし学べていない。これが普通の生徒なら耐えられないがボクは耐えられる。何せマフィアだ。殺し屋だ。死ねだなんて言われ慣れている。
ボクを殺したいのなら一線を越えないと無理かな。

「ははっ」

表情を変えずに笑えばすぐに突っかかってくる彼等。

「何がおかしいんだよ!?」
「いや。前回から何も変わらないんだなと思って」
「「!」」

肩を揺らす連中は此処を辺りがあるようで、なんで知っているんだと表情を一変させる。ボクが何も知らないわけないのにね。あはは、馬鹿ばっかだ。
と、教室に姫崎が入ってきた。その周りには山本武、獄寺隼人の二人と嫌々なのか顔を歪ませた]世が居る。姫崎はと言えば昨日の腕に包帯を巻いて、頬にはガーゼを張っていた。ご存知の通りボクはやっていないけど。ボクに見られていることに気づいたのか姫崎はこちらに歩み寄ってきた。なんだいなんだい。香水臭ぇからこっちくんな。

「お、はよう」
「・・・あぁ。うん」


わざと怯えたようにいう姫崎に適当に返事を返す。これは、あれか「いじめられているのに主犯の子に親しげに挨拶をする健気な女の子」ということか。うわ、きも。
そんな気持ちの悪いカスを横目に本を取り出して表紙を開く。ずっと前にマーモンから貰ったものだが、なかなか読む機会もなく、読み終えていない本も山ほどあったので貰って数ヶ月の今、ようやく表紙がめくられた。
視界から彼らを消し去り、自分の世界にのめり込む準備は十分だと言うのに、彼らはそんなボクが気に入らなかったのか一人がダンッと机を両の手のひらでたたいて邪魔をする。本から目を外し、机を叩いた人物を見れば、それは大層お怒りの獄寺隼人であった。眉間に皺を寄せて、じっとこちらを睨みつけている。

「何か用かな?」
「昨日、有莉の家まで行って殴ったらしいじゃねぇか」
「ははっ、変な言いがかりはよしてくれたまえ。ボクはイタリアから来たばっかりだよ?彼女の家どころかこの辺の地理も怪しいのにそんなこと出来るわけがないだろう?」
「んなの後をついて行きゃぁ・・・」
「だから。出来ないってば。君の目はどうも機能していないようだから言っておくけど、ボクは昨日早退したんだよ?ボクがクラスに居なかったこと、気づいていなかったのかい?

先生も来たようだし、席に戻ったらどうかな?」

教室に戻ってきた教師に目をやりながら言えば、渋々と言った表情に席に着くクズ共。本に視線を戻す途中、獄寺隼人が放課後屋上に、と呟く。行くわけないだろう?と言いたいところだが今回は特別に君たちのくだらない前戯に付き合ってあげようじゃないか。君たちが立てた計画はボクがいないと始まらないようだし。


ま、猫にシナリオをひっくり返されないように気を付ければいいと思うよ?




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