それは小さな嫉妬心

私の恋が叶う確率は無に等しい。
例えるなら、そう。
彼が愛読書をマーガレットから週刊少年ジャンプに変えてしまうくらい。

「仁井くん」
「…またのご利用をおまちしております」
「早いよ!まだ何もしてないし、何も利用してないよ!」
「…何かお探しでしょうか」
「えぇ、探し物は仁井くんからの愛をって、静かに通報用のブザーを懐から出すのやめよう!?」

今日も今日とて彼は私に冷たい。
毎日根気よくこのコンビニに通っている私を、ただの客だとしか思われていない。
いやむしろ、客とも思われていないかもしれない。
ただの背景としての一部なんて思われていたら、もうショックで2日は寝込みそうだ。

それをここの店員である松駒さんという人に話したら、意外と立ち直りが早いんだねと褒められた。
ちなみに、松駒さんから仁井くんの情報を手に入れるために、私はいつも週刊おじさま倶楽部という、素敵なおじさまの写真が沢山収録されている本をプレゼントしている。
需要と供給できる成り立っているのだ。
今日も例によってそれを持ってきた。

「んもう、仁井くんったら全然冗談が通じないんだから」
「#名前#さん、不愉快という言葉をご存知ですか」
「仁井くん、愛って信じますか?」
「質問を質問で返さないでください。で、何の用ですか」
「あ、そうそう。松駒さん、います?ちょっとお話したいことがあって…」
「…松駒さんなら、明日のシフトに入っています。今日はいませんよ」
「えっ、今日お休みなの!?なんだ、残念。話聞いてもらいたかったのになぁ」

せっかく例の雑誌も買ってきたのに。
ちぇっ。
明日また出直すしかないか…。


「…松駒さんに、何か渡すものでもあったのですか」
「え?あぁ、うん。現物はプライバシー保護のために見せられないけど、とっても素敵な雑誌だよ」
「へぇ。あなたからプライバシー保護という言葉が出るなんて、一応人間らしいところはあったんですね」

ひどい。
この有様である。
今日は仁井くんが積極的に聞いてくるな、なんて浮かれていたら、すぐ地獄に突き落とされる。
ていうか、人間らしいとこもあったんですねってなに!?
私、今まで人間に見られてなかったってこと!?
本当に2日寝込みかけてしまいそうだよ。

「も、もう仁井くんにどう見られてるのか怖くて聞けないよ」
「それは遠まわしに言ってくれと頼んでいるようなものですよ。お教えしましょうか」
「あ、や、今はいいです!」
「…残念です」
「そ、そんな露骨に肩を下ろさなくても…」

今日の目的は仁井くんもだけれど、松駒さんにもあったからなぁ。
残念だけど、今日はこの辺で退散しよう。
私は肩にかけていたトートバッグを掛け直す。

「それじゃあ、今日はこの辺で帰るよ。仁井くんも、お仕事頑張ってね」
「…もう少しで上がれるんですが」
「え?」
「っていう、冗談です」
「なっ、何よもう!本気にしたじゃないの!」

仁井くんが珍しくあんなこと言うもんだから、初めて一緒に帰れるかもなんて浮かれたじゃない!
ぷんすか怒れば、いつもの無言の薄ら笑い。
そんな彼を私はいつも何故か許してしまう。

「もういい!また明日どうせ来るし、その時は仁井くんいないだろうし!」
「素晴らしい日になりそうです、明日は」
「本音は心の中でいうべきだよ!」

私はコツコツとヒールの音を立てて、スリーセブンを後にした。
仁井くんと少しこじれた会話が今日もできたことに、幸せを感じながら。





その後のスリーセブンにて

「おはようございまーす。あれ?仁井くん、さっき#名前#ちゃんの声が聞こえたんだけど、来てたの?」
「…いいえ、来てませんよ。松駒さん、とうとうバイト疲れで幻聴を聞くようになったんですか」
「えぇっ!?」



それは小さな嫉妬心 End.

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