雲雀の敗因は記憶を削除したことだった。


例えば今回の件が、黒曜の一件のように彼のプライドを傷付ける出来事であったり、戦闘での問題であったならこんな結果にはならなかったであろう。


昨日の記憶通り、雲雀は草壁を朝一番に咬み殺すと、後は至って通常通り風紀委員の仕事に取り組んだのだった。
勿論、後に起きる悲劇なんて知らずに。















「私、草壁君の彼女の結城葉月です」


放課後。
「お伝えしたいことがあります」と言って、雲雀の時間をわざわざ命懸けで取得した男が連れてきたのは。
先日教室で会った、女子だった。


頬を少し染める草壁にも、雲雀は嫌な顔をしたが、今はそれより、自身の領域に無断で入り込んだ草食動物をどうするかが先決である。


ギロリと草壁でさえ震え上がるような鋭い視線を葉月に送り、反応をうかがう。
たいていの人はそれで終了。
のはずなのだが。


彼女は全く動じずに、その場で相変わらずニコニコと微笑んでいた。
昨日のように。


「どういうつもり?」


昨日最後に見た、あの興味をそそる表情ではない。
作られただけの無機質な顔だ。





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