サラリーマン風のスーツの男達は、とても私の歩幅では間に合わないほど早足にロビーを抜けて行く。
ヒールがカンカンと痛い音を鳴らしたが、この機会を逃せば路頭に迷う可能性もあると思い、全力で駆けた。
すると、ヒールの音に気付いたのか、背の高いリーゼントの方がちらりとこちらに振り向いた。
「待って下さい!」
周りなど気にもせず大声で叫べば、男は律儀にもきちんと止まった。
勿論、もう一人の短髪の男も。
「何かご用ですか?」
厳つい外見と異なり、リーゼントの男が優しく問い掛けてくると、私は安心してニコリと笑い、恥ずかしくも正直に現状を話した。
つまり、こういった時、どうするべきか分からないと。
「お一人で旅行ですか?不運でしたね」
「はい。実はあまりイタリア語も得意ではなくて」
話せば話すほど、情けなくなってしまい、声が震えてしまう。
それでも見ず知らずの相手が色々と親切に説明してくれるので、メモを取りながら必死に対応を覚える。
──迷惑は、かけられないから。
「君、帰国予定なんだろう?」