と、脳みそが思っているのに私は何故か応接室の前に立っていた。
此処に、彼がいる可能性があるから。


「葉月?」


思わぬ声は後ろからかかった。
ビクリと身体を震わせてギリギリとロボットのように振り向くと、雲雀君が立っていた。


「入る?」


「う、うん」


私の横をするりと抜けて、雲雀君は応接室のドアノブを回した。


私の事など気にもしないようで、彼は皮張りのソファーに座るとどうやら朝の検査の資料らしい物に目を通す。
直ぐに、ドアの前で呆然と立ち尽くす私に気付き「座れば?」と対面のソファーにちらりと目線を移した。


断る理由も思い付かず、大人しくソファーに腰を下ろす。


呼吸と資料が捲られる音しかしない。
静か過ぎる部屋。
目の前には──


「今日は何の用事?此処に来るって事はよっぽどの事があるんだろ?」


資料から目を離して、私を見る雲雀君。
もとい幼なじみ。


「今日、バレンタインだから」


熱くなる顔。
きっと今私は真っ赤だ。
恥ずかしくて、恥ずかしくて──そして。


「失礼します、委員ちょ……結城さん?」


「く、草壁君!?」





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