「こんばんは、お嬢さん」
ハヅキは突如かけられた声にビクリと身体を震わせた。
恐る恐る顔を上げると、優しそうな茶色の瞳の青年がニコリと微笑んで見詰めている。
目が合った途端、ハヅキの顔は茹蛸のように真っ赤に染まった。
「す、すみませんっ」
青年はキョトンとした顔をした。
恥ずかしさで思わず謝ってしまったハヅキは自らの間違いに直ぐ気付き、瞳に涙を浮かべる。
「…すみま……せん」
誰に何を謝っているのか。
語尾が小さくなり声が掠れる。
青年はしばし沈黙したが先程の優しい声色でウエイターに何か頼み受け取ると、俯くハヅキの目の前に差し出した。
「大丈夫ですよ。これを飲んで落ち着いて」
差し出されたのは温かそうな紅茶。
「甘くしておきましたので」という青年の声を聞きながら指示された通り口を付ける。
途端、紅茶の甘みが口一杯に広がった。
「美味しい!」
素直に口から出た言葉を青年は相変わらず優しい顔で見詰める。
ハヅキはおずおずと顔を上げ、彼に照れ臭そうに微笑んだ。
「あの……ありがとうございます」
「良かった。まさか話しもせずに嫌われたかと思いましたよ」
「そ、んなこと……」
しどろもどろになる言葉はきっと照れだけではないだろう。
「俺はウェ……いや、コンラッド。お嬢さんは?」
ハヅキはレッスンで習った通り、ドレスの裾を上げ腰を落とすとうやうやしく礼をした。
これだけ出来れば完璧、と言っていた身内の顔が目に浮かぶ。
「ハヅキと申します、コンラッド様」
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舞踏会の話が好きです。
どんな作品でも、直ぐに舞踏会を妄想してしまうくらい“舞踏会”というシチュエーションが好きですね。
シンデレラから抜け出せないのかしら……。
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