「随分楽しそうやな」
ジャリッと砂の音がする。
今日は訪問者の多い日だ。
彼を私越しに見た日吉クンは、目を少し開いていて、予想外の訪問者に驚いている。
勿論、私だって同じだ。
気配なんて忍者でもないのだから、読めるはずがない。
ましてや彼が好き好んで、自ら登場なんて有り得ない。
自分の手を汚さないと思われた相手自らの、訪問なんて。
──そう思ったのは検討違い?
「なぁ、姫サン。ボール拾い手伝ってくれへん?」
忍足クンの、その笑顔に何となくこの先起こる事を想像する。
レギュラーがボール拾いをするだろうか?
部員の多い男子テニス部のボール拾いに、手伝いが必要なのだろうか?
「木ノ下か岩浪でも構へんで」
──成る程。
「分かったわ、私が行く」
作業の手を止める。
此処は大人しく着いていくのが賢明な判断らしい。
「日吉も、はよ戻れや」
忍足クンの楽しそうな笑顔を睨む彼を見て、不謹慎にも安心した。
日吉クンは、木ノ下サンと岩浪サンには手を出さないと思えたから。
彼はやはり“傍観者”だ。