誰一人として逃しはしない。
私は天使ではないのだから。
重い空気が流れる中、一人、手を挙げた。
それに反応して周りがざわつく。
「俺、書く。ペン貸して」
「ジロー!?」
宍戸亮が芥川クンの手を握った。
信じられない者を見て瞳が揺れている。
「お前、本気なのか!?」
「本気だCー。俺、この問題から逃げたくないんだ。それに俺は結衣チャンに付く」
「結衣って、木ノ下か?」
「うん。俺は結衣チャンを守りたい。それに問題は元々オネエサンじゃなくて、結衣チャンと加奈の事から始まったんだCー。なら今後結衣チャンが巻き込まれる事だってあるじゃん。俺は結衣チャンを守りたい。今度は逃げないでちゃんと守りたいんだ」
何かを決心したような強い瞳で宍戸亮に答える。
真っ直ぐで、生きている瞳。
その瞳は昨日見たものとは全く違っていて、とても、とても格好良かった。
「わ、私も書きます!ジロー先輩の言う通りです。元々私と加奈先輩の問題なんだから、私も、逃げたくない!」
次に名前を書いたのは木ノ下サン。
木ノ下サンもまた決心が付いたのだろう。
自分自身の問題に立ち向かう決心が。
「おい、樺地。ペンを出せ」
「ウス」
「跡部!?お前っ」
「宍戸、それからお前等も。これは個人の問題だ。だから、テニス部員だからといって強制的に参加はさせねぇ。楓原の言う通り、責任を持てる奴だけ参加しろ」
「跡部、お前は何で参加するんだ?お前も誰かを守りたいのか?」
跡部クンは宍戸亮を見詰め、淡々と言った。
「ハンッ、ありえねぇな。俺様は知るためだ。この問題の発端は何なのか。知る権利もあるはず。この俺様が部長の時に起こった事件だ。解決しないことは許さねぇ」
ニヤリと跡部クンらしく、自信ありげに笑う。
そして、彼の名前の下にはしっかりと樺地崇弘の名前も書かれていた。
「樺地……」
「ウス」
その頃にはもう誰も何も言わなくなった。
次に手を挙げたのは意外な人物。
正直私も驚く。
「私も、参加、します……ッ!」
岩浪サンだった。
「春花?何で!?」