雨。
馬が駆ける音。
空が割れたように大地に落ちる水の粒は、恵みのそれとは異なり、痛いほど激しく、厳しく、生命の命を奪っていく。
そんな雨の中、宿屋の扉が乱暴に開かれた。
ギーゼラは驚き、扉を開けた人物を見るなり、血相を変え立ちはだかる。
まるでそこに、何よりも大切な宝物を隠しているかのように、寝室に繋がる階段を。
「今、ウェラー卿に会わせるわけには行きません!」
「ではせめて、扉越しにでも!どうか、お話しをさせてください!!」
急いで馬を飛ばしてきたのであろう。
彼女の身体は雨でずぶ濡れだ。
しかし彼女は……。
彼女はアルノルドで起こった過去最悪に等しい戦争の中で、起こしてはならないミスを起こした張本人。
ギーゼラの判断は素早かった。
「彼には休養が必要です!貴女がこの非常事態に面会など、不可能です。諦めなさい」
ウェラー卿コンラートは生きているのも奇跡なほどに憔悴しきっており、今必要なものは明らかに休息であった。
しかも今の状況で彼女と会わせるなど……。