「……マキシーン」
「聞いた名か?」
「……いいえ」
グウェンダルの部屋。
編みぐるみに囲まれながら、今回捕虜が吐いた名を小さく繰り返す。
報告書に目を通しながら、これをこの後アーダルベルトに渡す任務を受ける覚悟をしていた。
──アーダルベルト様に会ったら礼を言わなければ。
そんな私情を頭の片隅に置いて。
きっと彼ならば“良かったな”とか“残念だ”と言ってくれるだろう。
とびきりの笑顔で。
「フォングランツは……」
グウェンダルの言う先を予想して、リーヴェはこくりと頷いた。
眞魔国に滞在する日数等、元々数えるくらいしかない。
今回が特別で、例外だっただけだ。
ヨザック同様、人間の土地や言語に慣れたリーヴェにとっては。
「小シマロンに向かいます。報告は追ってまた」
久しぶりにグウェンダルの執務室で再会した時と変わらぬ単調な会話。
しかし、あの時とは歴然と違うエメラルドグリーンの輝きが今回の成果を物語る。