明日、朝一番で帰宅すればきっと問題ない。
こんな慣れない暗闇の中を動けば、迷子になってしまうだろうし。
自身をそう納得させて、ブルネットの髪の少年を追い掛けた。
「坊ちゃん、こんな夜更けに庭に出ては風邪をひきますよ」
広々としたエントランスで主を出迎えたファントムハイヴの執事は、面倒臭そうに、だがあくまでも優雅にシエルの肩にガウンをかけた。
元々病弱な主。
本人もそれには納得しているらしく、シエルは文句も言わないで、それを受け入れる。
そして、彼の執事であるセバスチャンの紅茶色の瞳が、スッと自身を通り過ぎたのを確認すると、話を続けた。
「迷子だ。明日、送るようにしろ」
「畏まりました」
シエルに対して優雅に一礼する。
ハヅキも同様に、頭をぺこりと下げると。
それを境にシエルは自室へと歩みを進めた。
シエルの足音が暗闇に消えたのを確認して、双方共に頭を上げる。
だが、セバスチャンの上がった顔に浮かんでいた瞳は、獲物を狙う、悪魔のそれであり。
ハヅキはビクリと身体を震わせた。
「しかし珍しいですね」