第1章・1−1 

 私はサドしか好きにならない。

 自分の性癖に気付いたのは、小学校六年生のとき。
 いけ好かないクラスのリーダー格と互いにつぶし合っているうちに、サドを叩きのめす愉しさを知ってしまった。
 相手が女子を泣かせたときに、しつこく責めたててみたり。
 林で拾ったエロ本を、相手の机のなかに仕こんでみたり。
 匿名のあまあまなラブレターで相手を近所の公園に呼び出して、のこのこ現れたところを散々バカにしてみたり。
 屈辱でぐちゃぐちゃに歪んだ相手の顔を見たときの、背筋がゾクゾクするような快感は、高校生になった今でも忘れない。

 えげつなくて、卑劣な手段で反撃されるのも、嫌いではなかった。
 目の前で、私が満面の笑顔を浮かべている写真を焼かれたり。
 トイレで用を足しているときに、ゴキブリやらナナフシやらの死体を、上からざらざらと投げこまれたり。
 ……生きもの係だったときに、私が一生懸命世話をしていたザリガニを殺されたり。
 どんな展開が待っているのかまったく読めなくて、学校にいるあいだずっと、ハラハラドキドキしっぱなしだった。

 私も相手も加減を知らない子どもだったから、嫌がらせはどんどんエスカレートしていった。
 最終的には、ふたりとも道を踏み外しそうになって、ささやかなトラウマを抱える羽目になってしまったけれども。
 以来、「なにごともやり過ぎはよくない」と反省した私は、中学でも高校でもおとなしく過ごしてきた。

 けれども、身近にぶちのめしたくなるようなサドがいないと、人生にときめきが足りない。圧倒的に足りない。
 高校生になったのに、せっかくの青春を謳歌できていないのだ。
 もう二年生だし、そろそろ気合いを入れなければ。このままでは、私のたった三年間の高校生活は、退屈なまま終わってしまう。
 残り時間はあと一年半。
 鼻柱をへし折ってやりたくなるような理想のサドを、早いところ捕まえなければ……。

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