第2章・1−1 

 城戸に「告白」した日から、金曜と土日をはさんだ月曜日の昼休み。

 お弁当を食べ終わってから、私は城戸のいる二年F組に向かった。
 もちろん、城戸にちょっかいを出すためだ。胸がヒリヒリするような言葉を交わして親城戸との密度をじっくりと高めつつ、それとなく城戸の個人情報を手に入れたい。
 肝心の城戸が教室に留まっていない可能性も考えられるけれど、城戸が教室にいなかったら、F組の人に城戸の行方を訊いてみればいいだろう。あまり広い学校ではないし、同じクラスの人なら大体の見当はつくはずだ。

 でも、もし、F組の人も城戸の居場所を知らなかったら。学内をくまなく探して、私の執念と熱い想いを、城戸に見せつけてやろうと思う。
 私のしつこさを身にしみて知ったら、城戸もあきらめて屈服されてくれるかもしれない。
 まあ、城戸にすぐに屈服されても、それはそれでつまらないのだけれど。
 私は城戸と、互いの胸に引っかき傷を刻みあうような、熱くて苦い駆け引きをしたいのだから。

 城戸と愛やら憎しみやらを育む過程を思い描きながら、足取り軽くうきうきと歩いていくうちに、私はF組の教室の入口にたどり着いた。
 教室のドアは前後とも開けっぱなしで、私を歓迎しているようにも見えなくはない。
 たぶん、今日も暑いから、風通しをよくするためにドアを閉めていないだけだろうけれど。

 私は肩口で変な方向に跳ねている毛先を直しながら、遠慮なくF組に足を踏み入れた。
 F組の教室では、生徒同士でがやがやとおしゃべりする声が、あちこちから聞こえてきた。昼休みらしく、活気に満ちている。私のクラス同様、騒がしい教室だ。
 私はなんとなくほっとして、ドアの枠に片手をついたまま肩の力を抜いた。いつも喧騒のなかに身を置いているから、ほどほどににぎやかな教室は心地よかった。
 休み時間に、葬式のように静まり返っている教室なんて、かえって落ち着かない。

 私は周囲の視線なんて気にせずに、黒板の前に向かってずかずかと歩を進めた。
 自分の所属している教室ではないからといって、入室を躊躇する必要なんてまったくないはず。うるさい教師がちらほら存在する中学とは違って、高校は基本的に自由だから。
 私は堂々とした足運びで黒板の前まで移動し、教壇の上に立った。
 まだ新しい木製の教卓に片手を置き、室内をぐるりと見渡してみる。
 教室を支配する教師または学級委員になったようで、少し気分がよかった。私は馬鹿でも煙でもないけれど、実は高い所が好きなのかもしれない。

 F組の教室内には、だいたい二十人くらいの生徒がいた。
 だれひとりとして、私の存在を気にはしていない模様。たまに人目を感じることはあっても、視線はさっさと流れていってしまう。
 まあ、当然といえば当然だろう。
 他のクラスの生徒が教壇でキョロキョロしていたところで、ふつうの生徒なら「自分以外のだれか探しているんだろうなぁ」くらいにしか思わないはず。私だってそうだし。
 そもそも、ほとんどの生徒は友だちと戯れるのに夢中で、壇上の私に気を配る余裕なんてなさそうだ。
 ひとりで昼休みを過ごしている生徒も、本を読んだり、机に突っ伏して寝たふりをしているから、私の来訪に気づいていなさそうだ。

 私はじっくりと室内を眺め回した。昼休みをひとりで過ごしている生徒の顔を、ひとりひとりチェックしていく。ふたり以上でおしゃべりを楽しんでいる生徒はスルーだ。
 城戸からは強烈な孤独のオーラを感じたから、休み時間もひとりで過ごしているはず。城戸がだれかと仲よくしているイメージがないのだ。ひどい偏見かもしれないけれど。

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