実渕玲央
野放し注意
「名前ちゃん!」
「わっ」
唐突に名を呼ばれ振り返ろうと思うと、直後に何かに抱きしめられた。
何か、というより誰か、は容易に想像がつく。
というか一人しか思いあたらない。
「玲央くん重いよ」
「ごめんなさい、アナタを見付けてつい嬉しくってね」
ほらね。
まあこんなことするのは玲央くんくらいだもん。
「赤司くんに見付かったら怒られるよ」
「今日は一年は実習でいないから平気よ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめる腕に触れて離れるように促すと玲央くんは寧ろ更に密着してきた。
「玲央くんってば、」
「イヤよ。折角征ちゃんがいないのに今抱きしめないでどうするの?」
「放課後でもいいじゃない」
「私は一秒でも長く触れていたいの」
名前ちゃんは違うの?なんて。
そんな悲しげに言われたら振り払えない。
これがワザとだと分かってるのに毎回こうして仕方ないと思ってしまうのだから惚れた弱みの大きさを実感する。
「今日だけだからね?」
「名前ちゃん大好き!」
「きゃあっ」
そう言って私を抱き上げると、玲央くんは鼻歌交じりにどこかへと歩き始めてしまった。
もう少しで昼休みが終わるとはいえ廊下にはまだ生徒はいる。
その視線に私は耐えられなくて、顔が赤く染まるのを感じながら玲央くんの胸に顔を押し当てた。
「今日は積極的ね」
嬉しそうな声と一緒につむじにキスが降ってきて、それと同時に小さな悲鳴が耳に届く。
それがいっそう羞恥心を煽るって分かってるのに、だからこそ玲央くんは止めてくれない。
もしもこの状況下に赤司くんがいれば問答無用で玲央くんを引き剥がしてくれたに違いない。
赤司くん曰く『玲央を野放しにするとバスケ部のイメージダウンに繋がる』らしい。
これは赤司くんが入部一週間で言った言葉だ。
確かにところ構わず私にくっついたりキスしてきたりするのを見ていればそう言いたくなるのも頷ける。
だからなのだろうか。
「気絶させちゃったらごめんなさいね?」
「っ!!」
冗談なのか本気なのか、その真意は私にはまったく分からない。
けれどその甘い囁きだけはワザとなのだと艶っぽい笑みから察することは出来る。
赤司くんではないけれど、玲央くんを野放しにしちゃいけないと思わざるを得ないくらいの色っぽさだし。
すこぶる上機嫌な玲央くんには申し訳ないんだけど、今すぐ逃げたい衝動に駆られてしまう。
玲央くんのこういう笑みは事後に腰を痛めるのがお決まりだし……。痛いのはイヤだ。
しかしそんな私の気持ちなど露知らず、玲央くんの足は教室とは真逆の方向へと進められるのだった。
野放し注意
(でないと美味しく頂かれます)
企画参加させていただきました
思っていたよりも難産でしたが楽しかったです
ありがとうございました
[BACK/TOP]