7 | ナノ
「ねえどうするの?」
「何がだ」
「ナマエのことだよ」

最近ナマエはハンジのところへ行く回数が増えた。ハンジの部屋から出て行くナマエの様子はいつも浮かれているように思える。くだらない入れ知恵でもされているのだろう。実際その悪知恵のせいで不意打ちにキスをされた。

「わたし、見ちゃったんだよね〜」

にやにやと頬を緩ませるハンジに蹴りを見舞ってやるが寸前のところで避けられてしまい苛立ちが募る。ねえ聞きたい?何を見たか、意気揚々にほぼ完全に俺を置いて話を進めるハンジに諦めという文字が浮かぶ。

「リヴァイ、この前ナマエの部屋で何してたの?」

この前、不特定な時を指すがそれがいつなのか見当がつく。ナマエは基本的に自分の部屋にいない。就寝のときだって誰かの部屋に泊まるらしい。せっかく部屋を与えたというのに活用しないのは贅沢なやつだと思う。今まで通りリヴァイさんと同じ部屋でいいです、エルヴィンの説得にも応じず頑に意思を曲げなかったナマエは未だに自室で寝ることは少ない。そんな彼女が自室にいたとき、ハンジが言っているこの前とはそのときのことを指しているのだろう。

「キス、ナマエにしてたよね?」

してないとは言わせないよ、わたしばっちり見たし!鼻息を荒くさせ興奮気味に話すハンジに何も言えない。言い返せない。事実、俺はナマエにした。だけどそれを知っているのは俺とハンジだけ。

「寝込み襲うとはね」
「変な言い方するな」
「事実じゃないか。寝てるナマエに、だよ?」








机に突っ伏して寝ているナマエの顔はどこか穏やかで昔のことを思い出させた。白く小さな手を精一杯伸ばし俺に笑いかけ舌足らずに名前を呼ぶ、りばいさんすき。

「リヴァイさん、すき」

小さな動揺を隠すためにナマエの耳元で囁く。届いてほしい、届かないでほしい。







訓練が終わって夕飯も済ませてあとは寝るだけ。コンコンと扉を叩くと不機嫌そうな顔がわたしを迎えた。表情には何でここにいる、帰れと言っているようだが構わずに入れてくださいと言うと渋々と中に通してくれた。

「またか」
「今日だけ!」

もうこの台詞を何回言ったか、そしてリヴァイさんに何回聞かせたか。訓練兵になって会う回数がぐんと減った。話す回数も一緒に寝る回数だって会うことよりも少なくなった。訓練兵の身、むやみやたらに調査兵団へ訪れることや関わることはできない。だからたまにこっそりと会いにいったりする。

「今日はだめだ、帰れ」
「…やだ」
「駄々をこねるな」

会いたくてけど我慢してでも会いたくてようやく会えたのにリヴァイさんは不機嫌そうに、いやそうにじゃない、不機嫌にわたしを追い返そうとしてくる。ねえわたしだけなのかな、寂しいのは。





どうする、そんなことわからない。ハンジの質問を返す気はないし答えも見つからない。目の前の彼女の目は暗く濁っていく。自分が突き放すことで傷ついていくことはとっくの昔に知っている。掃き溜めのようなところで唯一綺麗なまま俺を待っていたようにそこにいた少女はいつからこんな表情をするようになったんだろう。





「わかりました。じゃあひとつだけお願い、いい?」
「なんだ」
「目瞑ってほしいです」

呆れながらも目を瞑ってくれるリヴァイさんはいつまでも優しくて甘えてしまう。きっと今からすることなんて大人な彼はわかってる。わかっていても止めない、受け入れてくれない。





「これで二回目だね」
「何がだ」
「キスだよ」
「いや」
「え?」
「三回目だ」

何回数え直しても三回はない、二回だ。うーん、うーんと悩んでも仕方ないから聞いてみても知らねえならそれでいいと片付けられてしまう。

「それに三秒以下はキスとは言わねえ」
「そんなの聞いたことないです」



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