地下に住むゴロツキは私達、上にいる普通の人間には恐怖対象でしかない。 それは小さい頃から此処で住む私達は、地下に住むゴロツキ達に会う機会が多い。 親からは絶対に目を合わせてはいけない、直ぐに逃げる事を、何度も聞かされていた。 ----- 「お嬢ちゃん、こんな所に来ていけない子だねぇ?フヒヒヒ」 汚い笑い方をして、私に一歩一歩近づいて来るその男。 直感で分かった。 地下のゴロツキだ。 「ち、近寄らないで…下さいっ!」 私は一歩一歩近づいて来る男から後退りをして行く。 が、辿り着いたのは冷たい壁。 しまった…! 「汚らわしいっ!こんな小娘など放って置けば良いのに…!」 「へへへ、そんな小娘が暇潰しになるなら儲けんだ」 性根まで腐ってるのか…っ 男は服の襟袖を握ると… 布の千切れる音。 外界の空気に肌が晒されて寒気を感じる。 「ヒッ!?」 「白い柔らかい身体してるなぁ、流石若い女」 羞恥心や恐怖や悪寒や憤怒などの感情が絡み合って気持ち悪い。 目の前の男に反吐が出る。 あぁ、あの時に近道などしなければこんな事にはならなかっただろうに。 …ちゃんとお母さんの言い付けを守れば良かった。 もうダメだと、涙で歪む視界に思った。 「おい、豚野郎」 凛とした言葉と共に、私の目の前に居た男が吹っ飛ばされて壁にぶつかったまま動かなくなったのを息を呑んで見た。 声のする方を見ると、そこには小柄な一人の青年が立っていた。 「誰の許可を得てこの敷地内で暴漢働いてんだ、下衆野郎」 倒れている男をこれかって程睨みつける青年は一匹の獣の様だ。 あんな目で睨まれたら動けないだろう。 いや、蹴り付けられてもう動けていないあの男。 しかし、どうしたらあんな小柄な青年からあの男をねじ伏せられる様な蹴りが出せるのか不思議だ。 「え、あの…」 「てめぇもこんな所に来てんじゃねぇ、んな事されるの分かってんだろあぁ?」 「す、すみません…っ」 ギロっと睨まれてしまった。 怖い。 「チッ」 舌打ちされて此方に近づいて来る青年。 ふわっ、 「え、」 「若い娘がいつまでそんな恰好してんだ」 包まれたのは黒いジャケット。 「あの……ありがとうございます」 「ふんっ…」 すると、そのまま踵を返して行く。 「おら、また襲われたくなかったら早く来い」 「あ…は、はいっ!」 私は立ち上がろうとすると、 「あ、あれ…?」 「…どうした」 「た、立ち上がれなくて…」 ----- 「……」 「す、すみません…助けてもらった挙句に」 私は彼の背中に居る。 腰を抜かしてしまった私は、青年によっておぶってもらっている。 申し訳ない… その言葉でいっぱいである。 「チッ、仕方ねぇからな」 「うぅ…すみませんっ」 し、舌打ちされた…! 「…貴方のお名前は何て言うのですか?」 「あぁ?何でも言わねぇといけn」 「お、お礼がしたいからです!!」 「…リヴァイだ」 「リヴァイさんですねっ、本当にありがとうございました…」 「何回も聞いた、もう礼は言わなくていい」 「リヴァイさん…ありが」 「あぁ?」 「…すみません」 あ、どうしよう… 眠たくなって来た。 「お前の名前は…」 重くなる瞼。 ぼーっとする頭。 あぁ、名前言わないと… ----- 背中からは寝息が聞こえて来た。 「チッ、寝やがったのか」 急に重さが増したかと思えば、背中の女は寝ていた。 この女とは初対面ではない。 この女は俺の事など知らなかった様だが。 地下の上で何回か見掛けた事があった。 母親と笑いながら歩いている姿をよく見ていた。 「なぁ、お前は何故俺を憶えていない」 問い掛けても答える筈が無いが。 俺は憶えていると言うのに、こいつは憶えてないない。 そんな理不尽な事があるか。 「…いつか責任とれよ」 地下の出口の光に一つ言葉を零す。 ひとでなしも恋に落ちる |