私は昔から彼のことが苦手だった。 「爪長くないか?」 訓練に向かう途中、同じ班に所属するリヴァイに呼び止められる。 立体機動装置のベルトを上手く装備できなくて焦っていたので、彼にしょうもないことで声を掛けられてイラッときた。 「切り忘れただけでしょ?」 ベルトをカチャカチャ言わせながら早足で廊下を歩く。 「訓練の時引っ掛けて剥がさないよう注意するんだな」 爪が勢い良く剥がれ血が飛び散る光景を想像して思わず身震いする。振り返るとリヴァイが憎たらしい笑みを浮かべて立っていた。 悔しいから彼の言うことを真に受けたくないが、訓練中に気になって集中できなくなるのは困る。 邪魔な装備をリヴァイに押し付けて反対側に走り出し、振り返りながら自分より背の低い男に指差し叫ぶ。 「あんたのせいだからね!それ持って待ってなさいよ!一緒に遅刻してもらうから!!」 リヴァイの呆れたような表情がさらに不快を募らせた。 私はリヴァイが苦手だ。細かいことによく気が付いて、しつこく私の意表を付いてくる。そして最後は決まって子供を見るような目で見てくるのだ。 その後訓練を終えた私は班のメンバーと話していた。 立体機動の訓練で好成績を残したエルヴィンに色々聞いていると、横からリヴァイが口を挟む。 「そんなやり方じゃすぐガス切れになる」 エルヴィンが僅かに眉を寄せる。 「彼に適わなかったからって僻んでるの?」 腰を下ろしているリヴァイを見下ろして言うと、足のすねを思い切り蹴られてしまった。 「何すんのよ!ちび!」 「そのちびより成績の悪いお前は何なんだろうな」 火花が見えそうなくらいの睨み合いが始まり、エルヴィンは額に手を当てため息をつく。 「そのへんで止めとけ。教官が見てるぞ」 ふてくされた顔で目を逸らす彼に舌を出して、訓練所へ足を向けた。 私がいなくなった後でリヴァイがエルヴィンに挑戦的な発言をしていたことに気付かないまま。 ---------- 私は今、訓練所の裏でリヴァイに口付けされている。壁に両手を付けられて身動きできない状態で、強引に。 「ん…んん…」 太ももから腰までいやらしい手つきで触られ、するりと服の中に手を入れられる。 這われた部分の肌は熱くなって、彼の手が伸びそうな心臓はばくばく鳴って、下半身は涙が出そうな程じわじわ濡れ始める。 「ん…」 分からない… 彼が何故こんなことをするのか。 今まで過ごしてきた中で彼は私をバカにするばかりで、気の利いた素振りなんて一つも見せてこなかった。 そうだ、これはきっと私をからかっているんだ。今までの延長線上で私の嫌がる反応を楽しんでいるだけなんだ。 「…止めて!」 リヴァイを押し飛ばすと案外簡単に密着していた体は離れて、隠れていた彼の表情が露わになった。 私は何も言えず、吸い込まれそうなくらい透明で悲しみを帯びた瞳をただただ見つめていた。 「どうして…?なんでこんな…」 「何でだって?」 リヴァイは目を逸らし苦笑する。 「俺はずっと前からお前のことが好きだったんだ。エルヴィンとばかり話しているのを気にくわないと思うのは当然だろ? それとも知らなかったか?俺がいつもお前を気にかけていたこと」 私を責めるような目を見てくる。 「そんな…気付くはずない。だって…意地悪ばっかしてくるし…」 「仕方ないだろ」 彼は顔を上げ、これまで見せたことのない優しい笑顔を向けてきた。 いや、優しく見えるけど… 柔らかい表情に暗い影が落ちる。 「嫌がる表情が可愛くて…つい」 は…!? 開きかけた唇に彼のそれが一瞬重なる。 自分でも呆れるくらいどきどきして頬が熱くなった。 これから私、リヴァイにどう接したらいいの…? 好きな子ほど苛めたいものさ |